私と貴方の森
朝梅雨
第1話
「おはよう、アダム」
確かに彼女はそう言った。
ベッドに入りきらない大きな白い翼と木の腕。コバルトブルーの右眼があり紅薔薇色の左眼はベッドの影からはみ出して輝いている。他にも多々表現できそうな異色な部分はあるものの、キリがない。
「おはよう。朝ごはん、作ってくるね」
「うん!今日はパンがいいなぁ」
「丁度今無くなってるの分かってて言ってる?」
「まさか!私は此処から動けないわけだし」
ほらね、と言って鱗のついた両足を見せる。片方は龍。片方は魚人のモノ。何度直しても再生して再生して生えてくる。
龍の鱗は彼女の身体には馴染まず相性も悪いために指先の感覚すら無い。魚人もまた同じで馴染まず、どちらも寄生のような形で残っている。
可哀想な子。だから、彼女を救った。いや厳密にはまだ救ったとは言えないが、三年前はもっと酷い有様で対面した。
原型なんてとうに捨てたかの化け物の姿。眼からは大きな曼珠沙華がいくつも咲いている。血液からは未発見の毒物が見つかり、爪は鋭く禍々しい紫で覆われて、惨めでとても人前に出せるような
「こんにちは、今日の空はきっと綺麗よ。一緒に外へ出てみない?」
一言言って、彼女を牢から出した。奴隷商人が煩かったので、アダムの代わりに牢に突っ込んだ。
その日から、アダムの病気を治す薬を作る日々が始まる。
幸い家の近くは東西南北関係なく薬草が生える森で調合材料には事欠かない。
どうにか今のところ上手く治してきたけど、未だに残っている病気は全て未知。どの医学書にも魔導書にも書かれておらず、治しようがない異常なもの。
アダムは自分の病気の性質を全て理解しているが、説明が上手くなく良い情報とまではいかなかった。少なくともわかったのは二種類だけ、不死の病と日死の病。名前は似たようなものを本から見つけ貼り付けたが、どちらも難病には違いない。
温まった南瓜スープの中に粉薬を混ぜる。昨日作った試作品。アダムに実験台になってもらおうと思っているわけではないが、試す相手がまずいない。なんせ今まで未発見の病。片っ端から調合して試す。
・・・喉が焼けたり、眼が液状に溶けたり
最初の頃の私は彼女を軽く身過ぎていたようだ。不死だから、放っておけば肌や眼は勝手に治っていくからと病以外に興味を示さず、彼女のことは少し放置気味で会話すら少なくなってしまった。
あの頃には、もう戻りたくない。
私と貴方の森 朝梅雨 @karanokakeranohikarikata
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