ex 社会勉強の始まり

 それから医務室内でしばらく四人で会話を交わした後、アリサは試験会場へと向かった。

 クルージ達は再び観覧席へ。

 リーナも一緒だ。

 結果的に眠らされただけで、目を覚ました後に健康被害があった訳ではない。

 普通に元気に、こちらに改めて激励を飛ばして観覧席へと向かっていった。


(……よし)


 時間まであと僅か。

 アリサは控えの通路で軽くストレッチをし、開始時間を待つ。

 そんなアリサに、スタッフと試験官と魔術師が話しかけてくる。


「えーっと今からテストを始める訳だけど、最初はEランクのテストでいいかな?」


「今日はいきなり新人がAランク取ったり、Eランクの子が最終的にBランク取っちゃうみたいな事あったけどさ、基本的にはさっきみたいなのはイレギュラーだし。今回は一つ上のランクを目指すって事で頑張ろう!」


「……」


(……これは完全に背伸びして昇格試験を受けに来た駆け出し冒険者みたいに思われてる感じだ)


 まあ当然と言えば当然の反応だと思う。

 Eランクのリーナはまだ、最低のランクではないというある程度の評価を受けていたのに対し、アリサは最低ランクのF。

 一番下に振り分けられた本物の弱者。

 きっと流れてきた書類に目を通しただけではそういう反応をするのも無理は無くて。

 多分逆の立場なら自分もそういう風に声を掛けていたんじゃないかと思う。


 とはいえ今自分がそこに付き合う理由も無くて。

 クルージ達を退屈させたくもなくて。

 だからきっと善意でそういう事を進めてくれている試験官とスタッフには悪かったが、此処は自分の意思を押させてもらうと思った。


「あ、とりあえずAランクの試験からで大丈夫です」


 とりあえず確実な所で、その後イレギュラーがあっても皆で仕事ができるようにしておく。

 その為にまずはA。

 だけど目の前の二人にとっては予想外にも程がある選択だろう。


「あ、いや……キミ、さっきのテストとか見てた!?」


「Eランクの子がBランクのテスト突破できるのでも本当にイレギュラーなんだよ!? それをFランクのキミお嬢ちゃんがAランクって……考え直した方が良いよ。このテスト一人一回しか受けられないんだから」


「あ、いや、Aランクで大丈夫です」


「ほ、本当に?」


「か、変えるなら今の内だよ?」


「えーっと、色々とボクの事を考えて言ってくれてるのは分かるんで、その気持ちはありがたいんですけど……うん、大丈夫です。まずはAランクに挑戦します」


「ま、まずはって……」


「これこのままその上も目指しちゃうつもりだ……」


 スタッフと試験官は顔を合わせて苦笑いを浮かべる。

 そしてその後、試験官は言う。


「……よし、忠告はした。じゃあこっからは社会勉強だ。俺も手を抜かないから、お嬢ちゃんも頑張って」


「はい!」


 そしてそんな明らかに小馬鹿にされたような空気のまま、アリサは試験会場に足を踏み入れた。

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