ex 変わる眼差し変わる声
試験会場に足を踏み入れたアリサは、まずクルージ達の姿を探す。
そして先程と同じような位置に陣取っているクルージ達を見付け、軽く手を振った。
流石にリーナ程目立つ動きは出来ない。
やって貰う分には全然良いが、自分でやるのは少し恥ずかしいから。
そして手を振り返してくれたのを見て改めて気合を入れ直した後試験官と向き合い、それに合わせてスタッフが言う。
「ではこれよりAランクのテストを開始しまーす」
そんなスタッフのコールと共に、会場がザワ付き始めた。
聞こえて来る声を聞き取る限り、どうやら皆、自分がいきなりAランクの試験を受けるような冒険者だとは思っていなかったようだ。
悪い意味で知名度があったものの、実力を知られる場などずっと無かったのだから。
不運スキルの所為で、クルージと出会うまで誰ともパーティーを組んだことが無かったのだから。
だからクルージ達以外に、初めて自分の実力を見せる事になる。
そしてアリサを取り囲むように五体の黒い霧の幻覚が出現する。
アリサも両手にナイフを構えた。
そして神経を集中させる。
少々卑怯な気もするが、この黒い霧の幻覚の動きはグレンの戦いと、リーナの実質不戦敗みたいな戦いで見てきた。
……とりあえず合体されても厄介な訳で、そうなる前に全員纏めて倒してしまうのが得策だろう。
そう考え、アリサは黒い霧達が動き出すのを待つ。
訪れる僅かな沈黙。
そして次の瞬間、黒い霧が一斉に動き出した。
(……来た)
そしてアリサも僅かに動く。
正面に数歩。
そこが絶好の位置。
そして一斉に飛び掛かってくる黒い霧の方位を、体を回転させつつ跳び上がって脱出する。
……その間に黒い霧五体を何度もナイフで切り付けながら。
そして空中で魔術を発動。
両手のナイフに電撃を纏わせ、それぞれ瞬時に投擲。
放たれた二本のナイフはそれぞれ黒い霧へ直撃し、その二体ともを消滅させる。
そして着地したアリサは残り三体が動き出す前に。
新たな攻撃を繰り出したり合体したりというアクションを起こす前に地を蹴り、新たなナイフを構えて急接近。
そのまま走り抜けるように残り三体を切り刻み消滅させる。
「……よし」
この間、僅か数秒。
会場が静まり返る。
試験官の魔術師もスタッフも。見渡せば観覧席に居た他の冒険者も皆唖然としていて。
その場でアリサ以外に平常心を保っているのは三人だけ。
「いいぞーアリサー!」
嬉しそうに手を叩きそう言うクルージと。
「っしゃあ!」
自分の事のように嬉しそうにガッツポーズしてくれるリーナと。
「……」
特に声は上げなかったけれど、此処までは普通に予想通りというように腕を組み頷くグレン。
この三人だけ。
そしてそれから遅れて声が上がる。
拍手喝采。
大歓声。
かつて自分に向けられていた拒絶の声や眼差しは。
もう、完全に賞賛の声へと変わっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます