29 ねぎらいと激励

 敗れた冒険者は一旦ギルド内の医務室運ばれるらしく、一人で来た冒険者は目が覚めるまでそこに寝かされていて、同行者がいれば引き取るという選択もできるらしい。

 当然といえば当然なのだが俺達と、そしてルナさんはリーナを迎えに行く事に。


「こちらです」


「あ、どうも」


 係の人に案内され、リーナのベッドの前へとやって来た。

 正直精神的ダメージがどういう物か分からない以上心配だったのだが……。


「眠ってますね」


「無茶苦茶気持ち良さそうに寝てんな……良かった」


「一安心だなとりあえず」


「……ああ」


 ほんと、安心した。

 半ば俺達の予想通りやられた時は普通に焦ったからな。


 普通にスヤスヤで良かっただった。

 眠るまでの仮定がどういう感覚だったのかは分からないけれど、ひとまず大丈夫そうだった。

 ……いや、安全考慮したテストで大丈夫じゃなかったら困るんだけど。


「ん……駄目っすよアリサちゃん……」


「なんか寝言言ってるね。どんな夢みてるんだろ」


「アリサの夢って事は間違いないなさそうだけど」


「えへへ……なんか恥ずかしいですね」


「……お肉柔らかくしたいからって、なんで柔軟剤混ぜちゃうんすか……」


「「「……!?」」」


「え、冤罪ですよ!」


 その発言の瞬間、一斉にアリサの方を向いた俺達にアリサは抗議の声を上げる。

 と、恐らくそこまで深い眠りではなかったらしい。


「……ん」


 アリサの抗議の声で目を覚ましたのか、リーナがゆっくりと瞼を開いた。


「……ここは」


 まだ半覚醒状態で状況が読めていないようだが、直後勢いよく体を起こす。


「お肉! 柔軟剤に漬けたお肉どうなったっすか! まさか誰も食べて無いっすよね!?」


「リーナさん。そんな物最初から存在しませんよ。夢です。全部夢」


「え? あ……そうだ、私黒い霧にやられて……って事はそうっすね。今の全部夢っすよね」


「はい、夢ですよ。結構悪質な夢」


「そうっすね……いくらアリサちゃんでもそこまで酷い事はないっすね、まあ、うん……」


「その一歩手前みたいな言い方止めてくれませんか?」


 でもリーナはアリサの料理について辛うじて危なげなくなったって言ってたしな。

 うーん。辛うじての基準が何処にあるのか分からん。


「……まあ夢の事はともかく流石に冗談っすよ。実際アリサちゃんは包丁とかの使い方が危なっかしすぎてヤバいだけっす。安心するっすよ」


「悪いけど何も安心できねぇ」


「危なっかしいのベクトルだけ変わってるだけだな」


「まあ病院出た時も言ったっすけど、今は辛うじて大丈夫っすよ」


「そ、そうです! ボクは大丈夫です!」


「……が、外野が言うのもなんだけど、怪我しないようにね」


 ……ほんとにな。


「って、そういえば姉御はどうしてあそこにいたんすか?」


「ちょっと私用で顔出したらリーナちゃんが戦ってたから、最後まで見ちゃった」


「あははそうっすか……なんか折角色々教えて貰ったのに、不甲斐ない所見せちゃったみたいで」


「いやいや、想像以上に成長してて良かったとお姉さんは思うよ! お疲れ様!」


 そう言ってルナさんはグーサインをリーナに送る。

 そしてそれから踵を返す。


「あ、行っちゃうんすか」


「ま、私は私用で来てるからね。リーナちゃんにお疲れ言えたらそれで良かった。じゃあ此処からは仲良しの皆さんで」


「あ、また今度よろしくお願いするっす!」


「あーい、いつでもウェルカーム」


 そう言って軽く手を振りながらルナさんは医務室を出て行った。

 ……多分だけど俺達に色々気を使ってくれたな。

 次のアリサの番までもあんまり時間は無い。

 そんな中で早々と此処を俺達四人の空間にしてくれたんだ。


 だったらご厚意を素直に受け取って、言いたい事を色々と言ってしまおう。


「じゃあまあ気を取り直して、リーナ。ナイスファイト。凄かったよ頑張ったな」


「あの結界の一撃凄かったです!」


「今日のは本当にドヤっていいぞお前」


「えへへ、そうっすか……全然私なんてほんとまだまだっすよ。最後のAランクのテストなんて散々だったっすから」


 言いながらもドヤ顔を浮かべるリーナ。

 それを見て俺達も自然と笑みが零れた。


 そしてやがてそのドヤ顔を崩して、普通に安心したような笑みを浮かべる。


「でもほんと良かったっす。これで皆で仕事できる訳っすから。ほんと失敗したらどうしようって心配で……マジで良かったっすよぉ!」


 ……リーナちょっと泣いてる。

 どんだけ不安だったんだよ。


 ……まあ本当に。本当にさ、うまく行って良かった。


 そしてリーナは涙を拭って、アリサの方を見て言う。


「さて、じゃあ次はアリサちゃんっすね。グレンさんと私に続いてランクぶち上げちゃって欲しいっす。それで全員気分よく打ち上げするっすよ!」


「はい!」


 アリサがリーナの激励に力強く答える。

 ……さあ、これで最後だ。


 多分この無茶苦茶なシステムの中で最も不当な評価を受けたであろうアリサの戦いが。

 最底辺からきっと最高峰にまで届く戦いが始まる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る