ex 一緒に居たい人達と一緒に居る為に
観客席に手を振った後、改めて試験官の方に姿勢を向ける。
(ヤバイ……大丈夫かな……)
際限なく不安が湧き上がってくる。
当然、ギリギリのタイミングで気付いてしまった精神的ダメージの事もその要因の一つだ。
だけどそれは元々あった不安に上乗せされた新しい物で。
それ以前に。それ以上に大きな不安を抱えていて。
(なんとかしないと……皆と仕事ができなくなる……ッ!)
根底にあるのはその不安だ。
今自分の周囲に居てくれる人達は今の自分を受け入れてくれている。
一緒に一歩ずつ進んでいけば良いと、そんな事を言ってくれた。
だけどそれは自分達の間の感情の話であって、定められたルールなんてのは感情が干渉しない所にあって。
だからこそ、自身が恐れる状況から逃避するためには、此処をどうにか突破していかなければならない。
「ではDランクのテスト、開始しまーす」
係の人がそうアナウンスする。
まずはDランクだ。
初期のランクを決定する為にEランクのテストから受けていたグレンとは違い、リーナは最初からEランクというランクを与えられている。
そんな自分達のランクに不満が有りテストを受ける冒険者は任意で受けるテストのランクを選択できる訳だが……正直いきなり上のランクに挑戦できる程の自信は無くて。
だからまず目の前の壁から、一歩一歩超えていく。
(……よし)
集中する為に軽く深呼吸をする。
そして魔術を発動させ微量ながらも身体能力を向上させる。
それとほぼ同時に目の前にこれから戦う相手が幻術により作りだされた。
(……うわぁ)
目の前に現れたのは二体の魔獣だった。
果たして目の前の魔獣が、ここ最近世間を騒がせていた魔獣と同等の実力を持つ相手なのかは分からないが、もしそうだとしたら割と妥当な線を付いていると思う。
聞いた話だと、以前クルージとアリサで受けたCランクの依頼が、魔獣20頭の討伐という依頼で。
冒険者のランクと依頼のランクを照らし合わせれば、一人で二頭の討伐というのはCランクの下。
DやEランクとしては妥当なのではないだろうか。
つまり……この程度で臆しているようでは、端から目標まで達する事は出来ない。
(落ち着け……落ち着け私)
冷静に自信の手札を再確認する。
(まともにダメージを与えられるのは結界でぶっ飛ばす事だけ。でも動き速いと当たらないかもだし、そもそも二体同時……どうしよう)
考えて。
(……よし、決めた)
答えが出た瞬間……魔獣は動き出す。
それに合わせてリーナは地面に手を置いた。
次の瞬間、リーナの足元から立方体の結界がそれなりのスピードで生え出す。
足場として利用するリーナが振り落とされない、ギリギリのスピードで。
魔獣に襲われない高さまで。
「……ふぅ、うまく行った」
ほっとしたようにそう呟いたリーナは、下を見下ろす。
先程まで自身が居た場所では二匹の魔獣が結界に爪を立ててガリガリと削ったり体当たりを繰り出したりしている。
……だけど幸い、その程度で簡単に壊れる程脆くは無い。
とにかく、これで身の安全は確保した。
此処からは……ここ二週間で学んだ応用。
「えい!」
神経を集中させ、再び結界の足場に手を触れる。
次の瞬間、周囲の魔獣を狙い撃つように、結界から結界が生える。
それを二回。
その二回をどちらも直撃させ、それぞれの魔獣を弾き飛ばし消滅させる。
つまり……これでDランクのテスト突破だ。
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