12 ゴーストハウスおもてなしツアー
グレンの工房という半ばダンジョン染みた場所に足を踏み入れた俺達がまず案内されたのは、グレンが生活スペースとして使っている部屋だった。
どうやら此処の押し入れに目的のハンマーが仕舞ってあるらしい。
……仕舞ってあるという話だったのだが。
「あれ? こんな所に置いてあったか?」
……まるで用意してあったように部屋の出入口に置いてあるんだが?
「……まあいいか」
な、何もいい事ねえよ!
これお前の工房に関して言えば、結構由々しき事態だろ!
いや……で、でもまあ、ただ置いたの忘れてただけの可能性もあるし。
色々言いたいけど、此処は我慢だ。
これ言い出したら此処にいる間叫びっぱなしになる気がするし。
「じゃあ折角だしとりあえずお茶でも入れるわ」
「お、おう……」
本当は一刻も早く出たいんだけれど。
と、その時だった。
出入口にハンマーが置いてあったとか、そんな事がどうでも良くなるような以上に気付いたのは。
「な、なあグレン……」
「どした?」
「お茶入れるも何も、人数分のお茶湯飲みに入ってスタンバってるんだけど」
しかも……ご丁寧にお茶菓子も。
「「……ッ」」
俺の指摘した異変に対し、アリサとリーナが声にならない声を上げたのが聞こえる。
一方のグレンはというと。
「ほんとだ……妙だな」
口元に手を置き、この状況を考察するような素振りを見せる。
素振りを見せるが。
「……まあいいか。良く分かんねえけど」
と、あまりにも異常な程に楽観的な事を口にする。
そんなグレンに流石に色々と言ってやろうと、一瞬思った。
……そう、一瞬だ。
ギリギリで踏み留まった。
アリサが勘付いたように、まず間違いなく此処には何かがいる。
そして此処までの反応を示されれば冗談では済まされない。
半ば確定的に……グレンがその何かの影響化にある。
グレンはマジメな時とそうでない時のオン、オフは結構振り切れてる奴だけど……いくら何でもこの状況は振り切れ過ぎている。
「お、なんかよく分からねえけど、入れたばかり見てえだな……手間が省けたわ」
そう言ってグレンは湯飲みに入れられたお茶を飲む。
……だ、大丈夫なのか飲んでも。
……グレンの反応を見る感じ、変な物が混ざってる様子ではなさそうだけど。
……とにかく。
「……アリサ、リーナ」
「……はい」
「……言いたい事、大体分かるっすよ」
俺達はグレンに聞こえないような小声でそう確認しあい、湯飲みの置かれたテーブルへと歩みを進める。
「ほ、ほんとだな。とりあえずありがたく頂くよ」
「そ、そうですね。折角準備して……くれてますしね」
「あ、ありがとうっす」
三人して用意された湯飲みと茶菓子に手を伸ばした。
……多分俺達は、その何かにもてなしの様な物を受けている。
思えばグレンのハンマーが用意されていた事も、俺達にとって不利益がある様な事ではない。
……だからゼロとは言えないが、このお茶の危険性もある程度緩和できている。
そしてそれでも残る危険性を危惧するよりも。
……このもてなしを蔑ろにした場合のリスクの方が遥かに大きい気がしてならない。
進むしかないんだ。此処まで来たら。
……手足が震えてでも、このゴーストハウスおもてなしツアーを最後まで。
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