13 ポルターガイスト

 部屋で何者かによって容易された茶と茶菓子を頂いた俺達は、そのままお化け屋敷……じゃない、グレンの工房の見学を始めた。


「凄い手入れが行き届いてますね。まだ稼働してないってのもあるんでしょうけど埃一つ無いですし、備え付けられてるかまどとかもピカピカに磨かれてるし……」


 グレンの新工房はアリサの言う通りとても手入れが行き届いていて、新築の様な状態になっていた。

 ……とても、こう……殺人事件が起きた事故物件とは思えない。


「グレン、お前無茶苦茶張り切って頑張ったんだな」


「いや、これ全体的にプロの仕事っすよ。多分管理会社さんが定期的に掃除とかメンテナンスとかをやってくれてたんじゃないっすか? ほら、物件の条件的にもより丁重に色々やって少しでもプラスな要素作っとかないと契約取れないでしょうし」


「あーなるほど」


「そういう事ですか」


 俺達の中でそういう風に勝手に完結した所で、グレンが訂正を入れる。


「いや、確かに契約前から綺麗にはされてたが、此処まで新築みてえな状態じゃなかったな」


「って事はお前がやったのか?」


 と、聞いた所で突然不安になって思わず言葉が零れる。


「……いや、お前じゃない訳がないんだけどさ」


 そうであって欲しい。半ば願望。

 だけどグレンは言う。


「あーいや、実は違うんだよ」


「「「……ッ!?」」」


 言ってしまう。


「最初の段階でまあちゃんと、常識的な範囲内で綺麗だった。事故物件って聞いたから身構えたけど、見ただけだったら全く分からねえ位に綺麗だった。じゃねえとリーナの言う通り、契約する奴は来ねえわな……で、俺もそれ以上は求めなかった。この綺麗さは……なんかこう……寝て起きたらなってた。不思議な事もあるもんだな」


「「「……」」」


 グレンの言動が一番不思議になっているのは、見えない何かの影響として割り切るとしてだ。

 ……なんだろう、勿論怖いんだけど。不気味ではあるんだけど。機嫌とか損ねたら何されるか分かったものじゃなくてマジで怖いんだけれど。

 そうした感情を抱くことが失礼なような気が。

 何かいるのは間違いないけど、その何かは決して悪い物ではないのではないかと。

 ……なんとなくそんな気がしてきた。


 アリサとリーナの様子を見る感じでも、今までのただ単純に怖いといった感情よりも、何かこう、複雑な感じが伝わってくる。

 そうして俺達の感情に変化が訪れた頃だった。

 玄関の方から呼び鈴の音が響いた。


「ん? わりい、ちょっと出て来るわ。待っててくれ」


 そう言ってグレンは一人玄関の方へ。


「何か荷物でも届いたんですかね?」


「もしかしたら押し売りみたいな面倒な訪問販売とか、宗教の勧誘とかかもしれないっすよ」


「え、何? 最近お前んちにそういうの来たの?」


「いやー激しい戦いでしたよ。マジでめんどくさかったっす」


「あの手の類いは本当に大変ですよね。ボクの時は無理矢理部屋に入り込まれて胸倉掴まれましたからね」


「それジャンル違くないか?」


 というかそんなエピソードが当たり前に出てくるのが……こう、ほんと……なあ!


「あ、ちなみにクルージさんと出会う前の話ですよ」


「……だろうな」


 ようやく不運スキルの効力が俺の幸運スキルで相殺されているんだ。

 相殺されてまともになってもそんな事が起きるとか……そんな事があってたまるか。


「で、でもアレっすよね。此処で同じような事が起きても、こう……グレンさんが気付く前に色々と事が終わりそうっすよね」


「ほんと、的確に悪い奴にだけ危害加えてくれそうな気がする」


「……うん、やっぱり何かいますけど悪いタイプじゃないですよね。まだ怖くないって言ったら嘘になりますけど、なんとなく大丈夫そうだなって思えてきました」


「そうっすね」


「同意見だな」


 どうやら予想通り俺達三人は同じ認識に辿り着いていたらしい。

 と、その時だった。


 地面が揺れた。


「うお……ッ!」


「結構大きいっすよ!?」


 ポルターガイスト的な現象でも何でもない。無い筈だ。

 多分それは違うだろうと、これまでの状況からしてそう思う。

 おそらくシンプルに自然災害。

 普通に地震だ。


「とりあえず机の下……クルージさん!」


「先輩上!」


「……ッ!?」


 言われて上を見ると、地震の揺れで棚から箱が落ちて……来ない?


「……へ?」


 まるで見えない誰かが落下する箱を掴んだように。

 ポルターガイスト現象でも起きているかのように。



 俺に当たる直前で箱が宙に浮いていた。

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