99 一緒に一歩ずつゆっくりと
「だから私自身が誰かから逃げてるとか追われてるとか、そういう事じゃないんで……まあその辺は大丈夫なんすよ」
……そんな理由だったのか。
……だとすりゃなんでも身に着けていってたのにはある程度納得ができる。
改めて、それだけ深い所まで。そんな風に俺達から拒絶されるのを拒み始める、半ば被害妄想に近い事を感じる程深い所まで。
スキルがそういう形で発動する程深い所まで、自分に生きている価値が無いと刷りこまれていたという事も。
……改めて、怒りが沸いてくる。
一体誰がそんな事を刷りこんだのか。言い続けたのか。ソイツの顔面を拳でぶん殴りたくなってくる。
そしてそれに対して怒り交じりの感情を抱いたのは、アリサも同じだったらしい。
「きょ、拒絶なんてする訳ないじゃないですか! ボクはリーナさんの事好きですよ!? 大切な友達なんです! というか生きてる価値の無いって……そんなの誰に言われたんですか!」
リーナの言葉にアリサは声を荒げる。
荒げて拳を静かに握り締めている。
そんなアリサを見て思わず気圧された。もし目の前にその誰かがいたら本当に殴りかかってそうな、そんな感じがして。そしてそんなアリサに俺と同じく気圧されながらも、それでもリーナはどこか嬉しそうに言う。
「……先輩の言った通りだ。アリサちゃんも……そういう事、言ってくれるっすね」
そう言ってリーナは笑みを浮かべる。
「だからもう大丈夫っす」
そんな、こちらの心配を払拭させてくれるような笑みを。
「リーナさん……」
「だからあんまり怖い顔しないで欲しいっすよ。そういうのあんまりアリサちゃんには似合わないっすから」
「……はい」
そう言ってアリサはそこから更に踏み込むような事はしなかった。
アリサも多分それ以上無理矢理踏み込めないとも思ったのだろうけど、多分今のリーナの表情だとか声音だとかを聞いて、本人が言う通り今はもう大丈夫なのではないかと思ったのかもしれない。
少なくとも今は大丈夫なのだと、そう思ったのかもしれない。
アリサの表情は少し複雑そうではあったが、自然と穏やかな物へと変わっていく。
多分安心できたのだろう。そういう表情でリーナから言葉を聞けて。
そしてリーナは改めて俺達に言う。
「まあそんな訳で私は大丈夫なんすけど……まあ、大丈夫だからこそ二人に……勿論今話した事とセットで後でグレンさんにもっすけど、とにかく言っとかないといけない事があるんすよ」
そしてリーナは少し言いにくそうに言葉を貯めてから言う。
「多分私が今まで色々な魔術を覚えられたりしたのって、結局逃避スキルの力のおかげだと思うんすよ……で、まあ多分なんすけど、今は……今ならもう、その力の恩恵がそんな形で出てくる事って、無いとおもうんすよ」
「……まあお前が大丈夫なら、そういう事になるんだろうな」
リーナは拒絶されるかもしれない未来から逃避する為に逃避スキルが発動して、結果的に常人の域を超えた速度で魔術を習得するに至った。
そして今、リーナが抱えていた不安のような物を払拭できたのだとすれば、もうそこに逃避スキルが関わってくる事もなくて……つまりは今までのような異常な成長速度が無くなるという訳だ。
それはつまり。
「だからまあ、実際の所何が得意なのかも分からない訳で……正直、今やれてる事はともかく、新しい事なんてのは多分すぐにはできなくて……しばらくは大した戦力になれないと思うっす。とりあえずそれは……その……謝っておこうと思って」
つまりそういう事だ。
だけどそんな事を謝られても、俺達にとっては何の問題もなくて。
「そんな事、謝らなくてもいいんですよ、リーナさん」
「アリサの言う通りだ。別に謝んなくていいって……一緒に一歩ずつさ、ゆっくり進んで行こうぜ」
……これでいい。
「あ、えーっと…………はい。ありがとっす。二人共」
……俺達の関係性は、きっと、これでいい。
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