100 それから

 ラーンの村に戻ってきた俺達を……いや、俺以外を待っていたのは怪我等を心配するような声や、事の成果について尋ねる声だった。

 グレンがうまく事を誤魔化す感じで説明してくれたおかげで、アンチ・ギフターズの連中の存在を明言する事無く、魔獣に関する一件に手を打てたという事を伝えられた。

 グレンがそう説明し。アリサとリーナも賛同すれば。それで信用してもらえる。信用して貰えた。

 だから結果的に俺達は何もできていないのだけれど、ひとまずラーンの村が抱える魔獣問題は一応の解決を見せた事になる。


「……そのまま死ねば良かったのに」


「早く出ていけ疫病神」


 ……魔獣の問題は。


「……クルージ」


「分かってる。大丈夫だ」


 一旦グレンの家へと向かいながら、肩を貸してくれているグレンにそう言葉を返す。

 ……そうだ、もう大丈夫だから。三人に大丈夫にして貰ったから。もう何も気にならない。


 ……いや、嘘だ。無理だ。余裕で耐えられるけど気にはなる。改めて今酷い怪我を負っていて、肉体的にも精神的にも疲弊しきっているからか、自然と浮かぶよ。

 ……こんな奴ら、皆死んでしまえば良いと。


「……」


 遠くからこちらを心配そうに……そんなまともな視線で見てくれるユウ以外、皆死んでしまえばいいのにと。

 村の連中に対してそう考えた。


 ……果たして俺の隣にアリサが居なかったとして。幸運スキルの効力がまだ健在だったとして。

 果たしてどういう事が起こったのだろうか。起きてくれたのだろうか。


 ……どうでもいいけど。




 グレンの家へと戻ってきた俺達はひとまず一息吐く事にした。

 グレンが抱えていた仕事は王都に依頼に来た段階で全て片付けているらしく、話を付ければすぐに村を出られる。だけど流石に間髪容れずに動く訳にはいかない。

 俺達は全員揃って疲弊しきっていて。もし馬車での移動の際にモンスターに襲われれば、その疲弊した俺達が戦わなければいけなくて。

 此処までは無事に戻ってこれたが次もそううまく行くとは限らない。一晩位の休息は必要だ。


 俺達が休んでいる間、グレンは村の連中へと挨拶に行っていたらしい。

 王都へ黙って出るという訳にもいかないから、事前にやっておくべき事としては妥当だろう。


「どうだった?」


 しばらくして挨拶回りを終えて戻ってきたグレンにそう問いかけると、グレンは複雑な表情を浮かべて言う。


「大体皆快く送り出してくれたよ」


 そう言ったグレンは、外へ出た時は持ってなかった袋をテーブルの上に置いた。


「グレンさんそれなんっすか?」


「金だよ金」


 そう言ったグレンは軽くため息を吐いてから言う。


「少ないがって村長から金貰った。なんかな、皆俺が王都が刀鍛冶やるって事でちょっとずつ積み立ててくれたみたいでな。それで皆を代表してって感じで……」


「よかったじゃん」


「……なんでため息なんて吐いてるんですか?」


「そりゃそうだろ」


 グレンは本当に複雑そうな表情で言う。


「何もなきゃありがたく貰って済む話だったんだろうけどな……まあ色々あった後な訳だ。好意的にはなれねえだろ。なれねえし……そんな事考えながら、貰う物は貰ってる自分に腹立つんだ」


「まあ気持ちは分かるが気にすんなよ」


 俺は一拍空けてからグレンに言う。


「何より大事なのはさ、お前が成功する事なんだからさ」


「……ああ」


 こんな簡単な話ではないのは分かっているけど、それでも。

 俺はこれでいいと。

 これでもいいんだと。

 グレンが少しでも成功の道へ一歩進んでくれて良かったと。

 そう思った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る