81 作戦開始

 狭い洞穴に入った俺達はすぐに行き止まりで立ち止る事になる訳だが、それは予め把握してる。

 だから行き止まりの壁が見えた瞬間に俺は、追ってくる仮面にも聞こえるように叫んだ。


「やべえ行き止まりだ!」


 そして俺はポーチから発煙石を取り出し、入り口方向に向けて投擲。

 勢いよく噴出された煙は、俺達と仮面との間を埋め尽くしてこちらの。そして恐らく向こうの視界を完全に奪う。

 だが向こうからすれば何の問題も無いだろう。

 例え狙いが定まらないとしても、少し離れた位置からこちらを魔術で蜂の巣にすれば良いだけなのだから。


 そしてそれを阻む為に、その場に俺達を下ろしたリーナが正面に結界を張る。

 だけど此処に居る俺達三人全員が理解している。

 リーナの結界では向こうの攻撃を防ぎきれない。恐らく無数に射出される魔術の一発二発で粉々にされる。


 何か策を講じなければ。


「グレン!」


「おう!」


 そして迅速にグレンがリーナの結界に触れ、魔術を発動させ、そして言う。


「やれ、クルージ!」


「ああ!」


 そして俺はリーナの結界に刀を使って全力の突きを打ち込む。

 そして放たれた突きにより、刀が結界に突き刺さった。

 グレンの衝撃を操作する魔術によって深く。そして刀周辺の結界にヒビが入っている程度の損傷で。

 そしてその後僅かにグレンが継続して結界に対し魔術操作を加えた後、バックステップで交代。

 次の瞬間、轟音が響き渡る。


「……ッ」


 正面から何発もの魔術攻撃が結界に打ち込まれている。その衝撃音。

 だけどそれを聞き続けられる。聞き続けられる位に結界が壊れる事無くそこに立ち続けている。

 リーナの結界の硬度を考えれば起こり得ない状況だ。だけど今こうして結界は保たれ続けている。


「これ何が起きてんすか!?」


「クルージの刀が衝撃全部肩代わりしてんだよ」


 グレンの魔術により、全ての衝撃が結界ではなく刀の刀身へと肩代わりされている。


「持つか、グレン」


「大丈夫だ、倶利伽羅シリーズを。衝牙の強度を舐めんな。この程度の一撃位なら防ぎきってくれる筈だ」


 例えば俺が持っていたのがナマクラ刀だったら多分詰んでた。

 だけどグレン曰く丈夫なこの刀ならとそう思って発案して、俺より遥かにコイツに詳しいグレンがゴーサインを出したなら。

 この一撃は絶対に防ぎきれる。


 そして俺はリーナに言う。


「リーナ。俺が合図したら結界を消してくれ。一気に突っ込む」


「……あれ、やるんすね。その体で大丈夫っすか?」


「なんとかする」


 と、その瞬間だった。

 鳴り響き続けていた轟音が止んだのは。


「リーナ、グレン。やるぞ」


 轟音が途切れ、大声を出せばこちらの声が向こうに届く。だから小声で二人に告げ、俺達は静かに動きだす。

 結界が消える直後、視線を刀へと一瞬向けた。

 刀身に大きくいくつものヒビが入っている。今の攻撃の衝撃を一身に受けた結果だ。

 ……多分、もうどうやっても刀としては使えない。

 グレンから譲って貰った名刀を、こういう形で駄目にした。

 それは本当に申し訳ないと思う。

 だから改めて、全部終わったら謝ろうと思うよ。

 全部……終ったら。


「いくぞ、クルージ」


「ああ」


 そして俺は軽く跳びあがり、グレンが瞬時に魔術を掛けたハンマーに乗る。

 ……さあ、此処からが勝負だ。俺は俺の仕事を熟す。

 これくらいしかできないのだから、そのこれくらいに全力を尽くせ。


 そしてグレンのハンマーが振るわれ、俺は爆発的な推進力を得て、洞穴内に舞う発煙石の煙と土煙の中に突入する。

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