82 積み重ね、更に積み重ねる
おそらくというより間違いなく、何もせずに真正面から突っ込んでもうまくは行かない。
どう考えても格下である俺達には奇襲以外の策は無いんだ。
それも可能な限り徹底した。
場所を明らかに狭く奥行きの無さそうな洞穴を選び、リーナの機動力を一切生かせない場所に設定し、向こうの攻撃で確実に潰せるであろうと思わせる。
少なくとも先に一度リーナの結界を一撃で砕いたように、普通にしていれば防ぎようのない攻撃だ。故に煙幕を張ってすぐに肉眼で状況を確認できなくても、多分倒せたと思わせられる筈だ。思ってくれないと困る。
……とにかく、逃げ場のない場所に追い込んで倒した。必要なのはその思い込みによる隙。
その隙を突く。
一直線。左右にあまり移動できるスペースの無いという点では同じである筈の仮面の敵に向けて高速で一直線に。
そして煙の中を抜けた。
正面に見える敵は仮面を付けているから、この奇襲にどの程度の効果があったのかは分からない。だけど明らかに表情以外の動きで意表を突かれたという事は分かった。
「……ッ!」
だけどそれでも、遅れながらも動きだす。
分かってる。こんな策がうまく進んでいっても、うまく行った上でそれでも捻じ伏せられる可能性が十分にある事位。
……俺が突っ込んだ所で倒せない可能性が高い事位。
そもそも俺が万全だったとしてもこの状況で大した事は出来ない。
推進力を乗せた拳を叩き付ける。勢いそのままにショルダータックルを叩き込む。すれ違いながらのラリアット。勢いに任せた頭突き。
とにかく、そうやってできる事。
それら全ては対応されるか防がれるかもしれない。
否、防がれる。これだけやっても多分まだ足りない。
現に向こうには辛うじてその位の余裕があるように見える。
「……」
それを見て、思った。
……やっぱりこれで正解だったと。
そして俺はギリギリまで仮面の敵へと接近した所で、見えないように隠していた閃光石を至近距離で炸裂させる。
「グアァァァァァァァッ!?」
直後、眩い光が仮面の敵の視界を奪う。
もしもこんな御膳立てを行わずに閃光石だけ投げていたとしても、光を遮断する様な魔術を使われればそれで終わりだ。
だから此処までやった。
奇襲。奇襲からの攻撃。そう思わせて裏をかく。
ただ相手の視界を一時的に奪う為だけに、この一撃のチャンスを。自殺紛いのこのやり方で使う。
……ひとまず、後はグレンとリーナに託す。
「……ッ」
俺はとりあえず頭を切り替え、この失われた視界の中で無事に着地できるように必死になる事にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます