64 人間と戦うという事 上
「……まあ多分こういう事の対応に正解なんてのはねえ。お前らがそうすべきだと思ったんなら尊重するよ。そもそも俺はそんな事を言えるような立場でもねえんだけど」
そう言ったグレンは一拍空けてから言う。
「とにかくそういう結論が出たならこの話はこれで終わりだな。わりいな時間とらせて」
「いや、ほんとこういう時間を取らせてくれて助かった。ありがとなグレン」
「ところでグレンさん……態々此処でこういう話をしたって事は、今の話ってリーナさんには話してないんですよね」
アリサの問いにグレンは頷く。
「ああ。さっきも言った通り軽々しくできる話じゃねえし、本人の傷を抉るような話かもしれねえ。それにまあ……何度も言うが俺はお前らと違ってそこまで踏み込める立場じゃねえ。何も知らねえふりで通したさ」
「そうですか。ならボロを出さないように気を付けないと駄目ですね」
「そうだな、その辺は気を付けとかねえと」
そんな二人の会話を聞いていて、そう言葉を返しながら思う。
というより感じた……違和感を。
これはただグレンは俺の親友だからそう思うだけなのかもしれないけれど……俺達だってまだリーナとの関係性は薄いんだから、別にグレンがそういう立場にないとか、そういう事はないと思うんだけどな。
確かにまあ現状依頼を受けた冒険者パーティーと依頼人って感じではあるけども、実質仲間みたいな感じでここまでうまくやれてる気がするんだけどな。
と、そう考えていた所でグレンは言う。
「じゃあ後でボロを出さない為にも、明日に向けた話も少ししておこうぜ」
そう言ってグレンは工房の棚から小太刀を取り出しながら言う。
「アリサ。お前、対人戦ってのは経験あんのか?」
「対人戦……ですか」
「ああ、対人戦。当然戦闘訓練とかそういうのは抜きで、本気の殺し合いみたいな事をした事があるのかって話だ」
「殺し合いってお前、急にそんな物騒な事……」
アリサにとんでもない事を聞き出したグレンに思わずそう言うが、それでもグレンは冷静に言葉を続ける。
「急じゃねえ。本当はもっと早い段階から話とかなきゃいけねえような話だった。二人共、ギルドの方で俺がした説明を思いだしてみてくれ……俺は今起きている魔獣騒動をどういう類の事件だと捉えてた?」
「……人為的に起こされたんじゃねえかって話か」
「ああ、そうだ。改めて言うが俺は結構信憑性がある話だと思ってる。で、それを思いだして貰ったら、俺がどうしてこんな話を始めたかは分かるよな」
「……ああ」
流石に理解した。確かにこれはもっと早い段階から話しておかなければならない事だった。
「……明日俺達が戦うのが魔獣とか黒い霧とかじゃなくて、人間かもしれないって事だろ」
「そういう事だ」
グレンは頷いてからアリサに改めて問いかける。
「で、どうだ。人間相手にそういう戦いをした事はあるか?」
「……」
グレンの問いに少しだけ答えにくそうに間を空けた後、アリサは言う。
「まあ、ありますよ。グレンさんが思ってるような事とは違うような感じだと思いますけど」
「違うような感じ……いや、悪い、ちょっと待て。それ以上言わなくていい」
グレンはアリサの言葉に一瞬引っかかるような反応をするものの、少し暗い表情で言ったその言葉に手の平を返すようにそう言う。
多分グレンは本当に確認するだけのつもりだったのだろう。最低限。できれば最低限確認しておきたいような事を確認する為の問いかけ。
だけどアリサにとってそれがあったとするならば、不運スキルにより齎された碌でもない状況の可能性が高くて。そして今のアリサの様子を見る限りその可能性は可能性の域を超えていて。
アリサにとっては可能な限り思い出したくない事なのだろうと思う。
だけどアリサは言う。
「気にしなくても大丈夫ですよ。私の事は一応終わったことで……とにかく乗り越えて。乗り越えさせてもらって、今は楽しくやれてるんです。だから……その今の為なら昔の嫌だった事位言いますよ」
それに、とアリサは言う。
「聞かれなくたって結構ポロっと言いまくっちゃってますからね。もう今更ですしね。案外ボク、嫌な事を掘り返したくないって思ってるつもりでも、本当は愚痴を聞いて欲しいタイプなのかもしれないです」
そう言ってアリサは俺の方を見る。
まあ確かに今まで色々零れてたもんな……深く追及できないような話。
そう考えれば、本当に踏み込んではいけないと流石に理解できるような事以外は、考えすぎでこちらの杞憂だったのかもしれない。
そしてアリサは言う。
「まあそんな事はともかくですよ……一応何度も戦った事はありますよ。本当にグレンさんが思ってそうな戦いとは違う感じだと思いますけど」
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