63 取りたい選択

「お前らは……何か心当たりとかあったりしないのか?」


「……いや、何も。アイツ自分の過去詮索されるの割りとマジで嫌がるんだよ。だからまあ……俺にはアイツがどう言う奴か位の話しか分からねえ」


「そうですね、ボクも同じです。正直何か抱えてるんだろうなってのが分かってた位で、それが何かまではちょっと……」


「……なるほどな」


 グレンはそう言って頷いた後、俺達に問いかけてくる。


「……で、これが俺の言っときたかった事なんだが……お前らはどうする」


「どうするって……」


「過去、話したがらないんだろ? だけどそれ踏まえた上で踏み込むかどうか。それを決める権利なんてのが他人にあるかどうかと言われれば難しいんだろうけど、それでもそれがあるのなら、何かをしていいのは精々アイツの周りじゃお前ら位しかいないと俺は思う。仲間なんだからさ」


「……踏み込む、ね」


 俺とアリサはリーナとグレンが戻ってくるまでの間に、そういう話をしていた。

 リーナが詮索されたくない過去。そこに自分達から踏み込んではいけないと。そういう結論に至った。

 だけど今、グレンの考察によりある程度抱えている事の方向性が明らかになった気がする今。

 果たして俺達は出した結論をそのままにしておいてもいいのだろうか?

 正直な話、俺はすぐに返答をする事が出来なかった。

 だけどアリサは違って。一拍空けてから言う。


「……ボクはやっぱり踏み込まない方がいいと思います」


 アリサはそう言った後、少し言葉を考えるように一拍空けてから言う。


「事がなんであれ、リーナさんが抱えている物が私達に触れてほしくない事なら、やっぱり踏み込んじゃいけないって思うんです」


「……それが誰かが干渉しないと解決しないような問題だったとしてもか?」


 グレンは言う。


「何かから逃げているという事は、追い詰める何かが明確に存在するって事だ。悠長に放置していい問題じゃないかもしれないんだぞ?」


「まあ確かにそうかもしれないんですけど……それでも、傷付けるような事はしたくないんです。本当に……踏み込んだらリーナさんの心を踏みにじっちゃうような。そんな事みたいに思えましたから」


 それに、とアリサは言う。


「……多分誰かに追われているような、直ちにリーナさん自身に危機が迫ってるような、そういう感じじゃないと思うんですよ」


「なんか根拠は?」


「本当にいつ死ぬかもしれないような、身に危険が迫ってるような……そんな事になってたら。今のリーナさんのように悠長な感じでいられる訳がないんです。もっと切羽詰まってるような。多分そういう風になりますよ」


 その言葉には、それが正しい発言なんだと思わせるだけの重さがあった。

 きっとそういう状況を数え切れない程経験したアリサには、その言葉に信憑性を持たせるだけの力がある。

 力があってしまう。

 ……あえて口に出しはしない。グレンも察したようだけどそれ以上の追及はしなかった。

 そこから先はアリサにとっての踏み込まれたくない領域の話だろうから。

 そして。


「まあ確かに……そうかもしれない」


 アリサの言葉に賛同するように俺もそう言った。

 アリサが発した発言の重みの事を抜いても、その言葉にはどこか納得できる点もあったから。


 仮にリーナが誰かに追われているとして。それでエデンブルクから逃げてきたのだと仮定して。

 だとすればそこから魔術を習得して冒険者になるという選択はやや突拍子が無く、選択としてもあまりいいものとは言えない気がする。

 今まで話してきた感じ、リーナは自身の逃避スキルをグレンが言った仮説のような物だと認識していないように思えて、だとすればその誰かからの脅威を退ける為に魔術を覚えようという選択には至らない気がする。


 何しろ一種類だけでも超短期間で実践レベルの魔術を覚えたアリサがイレギュラーなだけで。そしてあらゆる魔術を短期間で覚えたリーナがイレギュラーなだけで。本来は実を結ぶまでにそれ相応の時間が掛かる技能なのだから。

 それなのにその追ってくる誰かを退ける為に魔術を会得しようとするとは思えない。

 最初から急成長できる確信でもなければ愚策も愚策。

 第一本来ならば逃げるために、もっと他にやるべき事があるように思えて……それこそアリサの言う通り悠長に冒険者なんてやってる場合じゃない。当面の生活費を工面する為だったとしても、それにしたって俺達とこうしてつるんでいる場合じゃない。

 もしも本当に誰かに追われているのだとすれば、今のリーナの行動はどこかおかしいんだ。


 だからこそ思う。

 リーナが逃避しようとしているものは、そういう物ではないのではないかと。


 そしてアリサは言う。


「だからボクは待つつもりです。リーナさんが何かを抱えているのなら、その何かを相談してくれる位に今よりもっと仲良くなって、そして相談されたらやれる事は全力でやってあげたいって。思うんです」


 それが正しい判断なのかは分からないけれど。


「……そうだな、アリサ」


 それでも俺達の取りたいと思う答えを。

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