51 信じるべき者

 多分そんな事をどこかで考えだしたのが、リーナに今の俺が村でどういう扱いをされていたかを聞いた時だと思う。

 どんな事だって本当に根も葉もない所からは噂が立つ事は無いだろうし、俺にはこの村の連中に対して自分を追い詰める位には思い当たる節があって。根も葉もあって。

 その根が自分が思っているよりもずっと深い物な気がして。

 そう考えれば自分の置かれた立場が、スキル云々以前の話のように思えて。

 せめてスキルが全ての原因だって。

 そんな物が無ければ……色々な誤解を解いたり、解けなかったとしても村の為に何かをできれば、もしかしたら掌を返してくれるかもしれなくて……だとすればきっと、自分がこの村に残した負の側面の根というのはその程度の物だって思えて。

 自分がまともだったかもしれないと思えて。


 だけど……結局これが答えなのかもしれない。

 多分俺がもう少しまともな奴だったら、あんな批判は上がらなかっただろう。上がったとしてももう少し位は大人しかった筈だ。

 だからまあ……連中がどうしようもないのは間違いないとして、俺も碌でもない奴だったのだろうって思う。

 ……だけど。


「大丈夫だよお前は!」


 グレンが俺に対してそう叫ぶ。


「お前がまともな奴だったのは俺が一番知ってるつもりだ! じゃあなんだ? 俺が今まで見てきたお前は一体なんだった!?」


「それは……ッ」


「何度だって言うぞ! お前は大丈夫だ! そして考えてみろ! 碌でもねえ奴大勢の意見と俺一人の意見。どっちが信頼できる!? どっちを信用してくれる!? それに……それにだクルージ」


 そしてグレンは言う。


「人間の人格が一ヶ月や二ヶ月で変わるかよ。だとしたらお前がパーティーを組んで、今此処にアリサとリーナがいる。そんな現状は故意に人を不幸にするような奴が掴めてるようなものじゃねえだろ。だから何よりも……あんな奴らを判断基準にする前にコイツらを信じてやってくれ」


 言われて、改めて二人に視線を向けた。

 そこにはアリサとリーナがいる。

 俺のことを心配してくれる奴らが。

 俺の仲間でいてくれている奴らがいる。


「……ッ」


 確かにグレンの言う通りかもしれない。

 誰を信じる事ができるかと言われれば、迷いなく今俺の目の前にいる三人で。

 そして誰を信じたいかと言われても、目の前の三人で。

 それは……もう、絶対に揺らがない。

 ……揺るがないとしたら。


 もう、過去に自分が連中からどういう風に見られていたのかなんて、どうでもよくないか?

 その過去をグレンがまともだったと言ってくれて。

 多分その時から何も変われていない俺は、アリサとリーナという良い奴らとパーティーを組めていて。

 もう……それが探していた答えだって思っても。いいんじゃないか?


「そうっすよ」


 リーナがグレンに続いて言う。


「あんな奴らより私達を信じてほしいっす。まあ付き合いは短いし私に人を見る目があるかは分かんないっすけど……でもあんな奴らよりもちゃんと先輩の事を理解して此処にいるつもりっすよ」


 そしてアリサも言う。


「クルージさん。知ってると思うんですけど、ボクを助けようとしてくれたのは……ボクなんかと自分から関わろうとしてくれたのはクルージさんだけだったんです。あの時クルージさんが助けてくれたから、今のボクがいるんです。そんな自分を……否定しないでください」


 そして一拍空けてから、アリサは俺の手を握って言う。

 言ってくれる。


「心配しなくてもクルージさんはちゃんとまともな人間やれてますよ。ボクが……ボク達が保証します」

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