ex もう駄目だと思うからさ

「……そうですね」


「まだ目は覚まして無いっす」


「……そうか」


 グレンは重い表情を浮かべたままそう言った後、二人に向けて静かに言う。


「話がある。ちょっといいか?」


「いいですけど……なんですか?」


「……場所を変えよう。あんまりクルージに聞かれたくねえ話だからな」


 場所を変える。

 今はあまり此処を離れる気はしなかったが、それでもグレンの声音や表情から。そしてクルージに聞かれたくないという言葉から。

 多分きっと、それは無下にしてはいけない物だと思ったから。


「分かりました。リーナさんもそれでいいですか?」


「いいっすよ、じゃあそれで」


「悪いな、助かる」


 そう言って二人は立ち上がり、先導するグレンに付いていく。

 そしてリビングまでやって来ると、グレンはソファーに座る。

 リビングのテーブルには麻袋が置かれいて、自分達がグレンの家に来たときは置かれていなかった事から、今戻ってきたグレンが用意した事が伺える。


 そしてグレンと対面になるようにアリサとリーナはソファーに座る。

 そして重い表情のグレンに問い掛ける。


「それで……話っていうのは」


「……単刀直入に言うぞ」


 グレンは一拍空けてから言う。


「クルージが目を覚まそうが覚ますまいが変わらねえ。お前ら、明日にでも王都に戻れ。神樹の森の調査はお前ら送り届けてから俺一人でやる」


「……いいんですか? クルージさんの意見を聞かなくても」


「……そうっすよ、先輩の意思でこの依頼を受けてるんすから」


「……戻る事自体は否定しないのな」


「えぇ……まあ」


 アリサが頷いたのを見た後、グレンは言う。


「なら話は早い。で、まあお前らの言う通り、クルージの意見は尊重しないと駄目だ。駄目だけどさ……」


 グレンはそこで言葉を詰まらせて……だけど静かに言う。


「……だけど、もう、駄目だろ」


 そう言うグレンの表情は、防衛戦後の集まりに向かう前よりより重い。


「……一体どんな話をしてきたんですか?」


 きっと話の核はそこだ。

 こういう話になるのが分かっていたから。

 それがろくでもない話だから。態々場所を移動したのだろう。


 そしてグレンは言う。


「俺は……まあどこか甘い事考えてたのかもしれねえ。あんだけ無茶苦茶な事があった。あったけどさ……いくらなんでもあんまり過ぎるからさ……誰か一人位は苦言をていしてくれる奴がいるんじゃないかって。そう思ったんだ」


「誰も……いなかったんですか?」


 半ば予想通りであまり驚きはしなかった。

 だけどグレンの表情を見て、嫌な予感がした。


「……それならまだ良かったよ」


 そう言ったグレンは一拍空けてから言う。


「誰かが言いやがったんだ。そのまま死ねば良かったのにって」


「……ッ」


 聞いていて、苦しかった。

 だけどそこまでもまだ耐えられた。予想通りだった。

 だけどグレンの言葉は止まらない。

 そんな程度で止まってくれなかった。


「よりにもよって……よりにもよって、そんな言葉に誰かが苦言を挺するどころか、賛同しやがったんだ。満場一致だぞ……ふざけんなよなんだよあれ……ッ」


「なんですか……それ……ッ」


 そうやって不快感が募ると言うことは、きっとどこかで自分も考えていたのだろう。

 流石に……せめてそこまでの事は起きないだろうって。

 せめてそれには賛同できないような。そんな程度の良心は働いてくれるんじゃないかって。

 だけど……それすらもなくて。


「だから思うんだよ……もう駄目だろうって。どんな理由であれ、クルージをこれ以上この村に居させちゃ駄目だと思う」


「……」


 だから。もうクルージの意見を聞いた方がいいだとか、そんな言葉も浮かんで来なかった。

 本当にこれだけは、もう駄目だと。流石にそう思わざるを得なかった。


「元々村から出した依頼ってのは村の防衛で、一応本来だったらあと数日いてもらう予定だったんだが……いや、お前達とが組んだ予定じゃ神樹の森で元凶を叩く予定だったから期間は有って無いようなものだったな。……まあ、いずれにしもだ」


 グレンは一拍空けてから言う。


「そもそもあの黒い霧が出現してる時点で俺達が提示した依頼内容から逸脱している。その逸脱した状況で討伐仕切ったんだ。今この段階で引いたとしても誰も文句は言わねえ。多分プラマイゼロで報酬も支払われる筈だ。そんで多分ギルドからも出るだろ、こういう時に追加で報酬が」


 一つ一つ。この村に残る理由を潰していくようにグレンはそんな話をした。

 本当に……本当にもう此処には居てほしくないと言うように。

 そしてそんなグレンに、沈んだ声でリーナが問い掛ける。


「グレンさん……その袋はなんなんすか」


 意味ありげにテーブルの上に置かれた袋への追求に対しグレンは静かに答える。


「とりあえず持っていってくれ」


 そう言ってグレンが袋を差し出して来たので、それを受け取り開いて中を確認してみる。


「え、これって……」


 中に入っていたのは現金だった。

 それも、結構な額の。


「慰謝料だと思ってくれ。今回の事に対するクルージへの……お前達への」

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