ex 今は祈れるから

 リーナに一通り、あの墓の前で知った事を話した。

 それを黙って聞いてくれたリーナは、クルージを見て静かに言う。


「なるほど。そんな事で悩んでたんすか……まあ先輩根っこからすっごい優しいっすからね。なんか難しく考えちゃうんだろうなーってのはなんとなく理解したっすよ。やらなくていい事をやろうとしてる。絶対先輩が抱え込む必要なんてないのに」


「でも抱えちゃってる結果は変わらないですから。だから背中を押したんです。クルージさんなりに折り合いを付けるためには逃げちゃいけないような事だって思いましたし……それに、あの人達の為に何かをやっているって事が、何もしないよりはきっとクルージさん的に楽なんじゃないかなとも思ったんです。本当は罪なんてないですけど……罪滅ぼしみたいなのは、多分自分を許す為にもある事だと思いますから」


「多分先輩が動いたのってそういう理由もあるっすよね。優しさと、感じなくていい責任と……後は一種の逃避って事っすか」


 リーナはそう言った後、一拍空けてから言う。


「でもそれもここまでっすよ……流石にもう先輩も折れたと思うんす」


「……」


「いつ折れても……折れてくれてもいい筈だった。あんな人達に向ける優しさも、責任も。そこから生じる罪の意識からの逃避も。どっかで無くなってくれててもおかしくなかったと思うんすよ。それでも結局折れなかったっすけど……流石にこれでもまだ何も変わってないなら、多分私達の考えは見当違いって事になるかもしれないっすね」


「見当違い……ですか」


「というか今までだって、先輩には何かもっと別の理由があったのかもしれないっすよ。こんな酷い所で、それでも戦おうって思えた理由が他にも」


「……他にも」


「まああくまで可能性の話っすけど。だけど他にも理由があった方が、先輩が今まで頑張ってたのも納得行くっすよ……それだけ。そんな憶測が正解なんじゃないかって思える位には、この村の人達は頭おかしいっすから」


「……そうですね」


「まあなんにしても、先輩が目を覚まさない事には何も分かんないんすけど……まずほんと、そこなんすよね。今までの事やその先の事よりも」


「……そうですね。リーナさん、ちゃんとクルージさん目を覚ましますよね?」


 段々と不安になってくる。

 本当に酷い怪我だから。命に別状が無いというだけで、このまま眠り続けるんじゃないかと。

 これまでどうしてきたか。これからどうするのか。そんな事もきっとあまりにも大切な事なのだろうけど、それよりも今が大事なのだ。

 なによりもまずそれから。


「……大丈夫っすよ」


「……」


「大丈夫」


 その表情にはなんの根拠も自身も見えないけれど。

 半ば自分に言い聞かせているようにも見えたけれど。

 それでも不安な時に自分以外の誰かがそこにいるのは、それだけでどこか気分が落ち着いて。


「……そうですね」


 そんな言葉を返す事ができた。

 しばらく前では考えられなかった事だ。

 支えてくれる誰かはいなかった。不安にさせる誰かもいなかった。

 誰も誰もいなかった。

 それが今ではクルージがいて、リーナがいる。そこから輪が広がる様にグレンがいて、まだ一度話しただけだけれど、ルナやアスカやシドといった仲良くなれそうな人達もいる。

 今の自分の周りには、ちゃんと誰かがいるのだ。


 その誰も失いたくはない。

 特にクルージとリーナだけは、絶対に失いたくない。

 だから……とにかく祈った。

 今までは祈れば祈る程。より酷い結果しか訪れなかったけど。

 今なら届くかもしれないから。

 届かせられるかもしれない権利を与えてもらえているから。


 そんな風に無事目が覚める事を祈りながら、ただ時間だけが経過した。

 大体三十分程時間が経った頃だろうか。

 クルージは今だ目を覚まさなくて。そんな中で。


「……まだ目ぇ覚まさねえか」


 より重い表情を浮かべたグレンが戻って来た。 

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