ex 慰謝料

「慰謝料って……」


「今回の事は多分、普通に考えれば最低でもそれだけの金額が支払われるべき事態だと思う。俺達はそれを出す必要があって、お前達はそれを受け取る権利がある。受け取ってくれ」


「ちょっと待つっすよ」


 リーナがグレンの話に待ったをかける。


「こんなお金……どこから出て来たんすか」


「……」


 リーナの言葉を聞いてグレンが押し黙る。

 確かにその疑問は至極真っ当な物だ。この村の人間が死んでほしいとまで思った相手に対し、自発的に慰謝料なんて払う筈がなくて。そうなってしまえばその出所というのはほぼ確実にグレンというまともな人間意外考えられなくて。

 そして今のグレンが、これだけの現金を用意できる事を知っていて。

 もしも自分の考えた事が正しければ……その現金の出所はきっとあってはならないところで。


「それ……もしかしてさっき言ってた、開業資金じゃないんすか」


 一瞬図星というような表情を浮かべたグレンだったが、一拍空けてから静かに言う。


「……だったらなんだよ」


「だったらって……」


「そんなの使っちゃ駄目に決まってるじゃないっすか……」


「だけど……これはきっと誰かが出さなきゃいけない金だ。その誰かが俺しかいないなら、俺が出すよ。なんの為の金なのかとかは別件でさ、今回の事とは関係ねえんだ」


 第一、とグレンは言う。

 本当に。自分を追いつめる様な、深刻な表情で。


「元々ギルドでお前らと会って、お前らに決めて此処に連れてきたのは他ならぬ俺なんだ。俺がもっと強く止めてればこんな事にはならなかった。俺には大きな責任が――」


「……ねえだろ、そんなのは」


 突然部屋の入口の方から聞こえた声に、その場にいた全員が思わず慌てて視線を向けて……そして、色々な感情がぐちゃぐちゃになった。

 どうしてそこにいるのかという戸惑い。どこから話を聞いていたのだろという焦り。

 そしてただ純粋に……目を覚まして良かったという安堵。

 とにかく、そんな感情を抱かせるような相手がそこにいた。


「だから受け取れねえ。そうでなくても……それだけは、絶対に受け取れねえ。ソイツは何よりも手を付けちゃいけねえ金だ」


 柱に手を付き、なんとかバランスを取って立っているクルージがそこにいた。

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