16 出発準備

 今後の方針を決めた俺達は、一度別れる事にした。

 元々俺達は日帰りで終わる依頼を受けるつもりでギルドに足を運んだ訳で。まず間違いなく数日単位の日数が掛かるこの依頼にすぐに迎える様な状態じゃない。

 だから各々準備をしてから再集合することになった訳だ。


「悪いな付き合わせて」


「別にいいってやる事ねえし」


 そして俺は必要な物と、昨日一昨日と結局買いそびれた日用品をグレンと共に買い揃えていた。

 そしてそんな買い物をしながらグレンは言う。


「しかしやっぱ王都はいいな。村と違って活気があっていい」


「まあ村とは雰囲気大違いだよな」


「おう。やっぱ賑やかなのはいいな。高揚感が高まる感じがするし……それに」


「……それに?」


「人が多い=可愛い女の子一杯いる。最高だな王都」


「お前アレだろ。それが大半閉めてんだろ」


「おう! いやーレベル高い娘一杯いるわー」


 ほんとコイツは昔から、真面目な話してる時とそうでない時で雰囲気違いすぎるんだよな……この女好きが。


「でもまあアレだな。確かに可愛い子一杯いるけど、ギルドですれ違った刀使いっぽい黒髪のエロいねーちゃん。あの人がぶっちぎりだな」


 ……アスカさんの事かな。

 多分そうだろ。刀使いで黒髪でエロい人ってあの人しかいねえよ。

 よかったな、グレン。その人の中でお前の扱い神になってんぞ。


「……しかしお前はアレだな。欲望に忠実だよな」


「否定はしねえ。でもお前も人の事言えねえじゃん。俺の趣味ではないけど、間違いなくぶっちぎりに可愛い美少女二人両手に花じゃん」


「いやまあ確かにそうなんどけどさ! まるでそんな目的でパーティー組みましたみたいな言い方するのやめろ!」


「……そういやお前はどうしてアイツらとパーティーを?」


 グレンはふと気になったようにそう聞いてくる。


「お前……誰かと組める様な感じじゃなかったろ」


「……まあアレから色々あったんだよ」


 それから、流石に俺が今思い悩んでいるような事は言い出せなかったけど、これまでの経緯をグレンに話した。

 そして全てを聞き終えたグレンは言う。


「SSランクの不運スキル……ね。あのアリサって子、とんでもねえもん抱えてんな。そう考えるとなるようになったって形が今のパーティーって訳だ。茶化して悪かったな」


「いや、それは別にいいよ分かってくれれば」


 流石に下心満載な理由でパーティーを組んだと思われるのは心外だが、分かってくれりゃそれでいい。


 と、そうして納得してもらえたなと思った時にグレンは言った。


「……で、クルージ。村の件……別にお前は何も悪くねえからな」


 急に脈略もなくそんな事を。


「急にどうしたんだよ」


「……お前、多分俺がもっとちゃんとしてればみたいな感じに村の件抱え込んでんだろ。いや、多分お前の元パーティーの連中も含めて。改めて自分のスキルを知った上でそんな風な事、思うようになってんじゃねえか?」


「……ッ!?」


 まるでこちらの心でも読んだ様に。グレンは真剣な声音でそんな事を言った。


「その反応、図星か?」


「いや、え……なにお前、人の心でも読めんの?」


「まさか。そういう魔術は使えねえ。スキルだってEランクの探知スキル。そんな力は俺にはねえよ」


 だけど、とグレンは言う。


「お前が多分まだ何か抱えているのは分かってた。そんでお前のスキルが本来どういうものだったのかっての頭に入れて……それからお前の話を改めて考えてみりゃ、なんとなくは分かるさ。その位の洞察力はあるつもりだし、それでなんとかなる位には……付き合いもなげえだろ俺達」


「……グレン」


「まあお前が考え出したらそう抜け出せねえようなくっそ面倒くせえ性格してんのは知ってる。だからまあ俺が何言った所で自分で落とし所見付けねえと何も解決しねえのかもしれねえけど、一応頭入れとけ」


 そしてグレンは改めて俺に言ってくれる。


「村を勝手に代表して言うぞ。お前は悪くねえ」


「……」


 分かってる。グレンの言う通り俺は随分と面倒な性格をしているよ。

 まだ割りきれていない。それでも納得できていない。まだ自分の中でうまくこの悩みを解決する事ができないんだ。

 だけど……だからといって、グレンにそう言われた事がなんの意味も齎さなかった訳では無い。

 無責任な事なのかもしれないけれど、気持ちは少し楽になった。

 俺がどこかで俺の被害者というように考えていたグレンにそう言って貰えるのは、本当に救われた様な気持ちになるんだ。

 本当に……持つべきものは親友だって。そう思ったよ。

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