17 幸せであるという事

「……で、俺達が一番乗りか」


「ま、集合時間よりある程度早く着いちまったからな。なあクルージ。お前途中からやたら急いでた気がするんだけど、もうちょっとゆっくりしてても良かったんじゃねえのか?」


「駄目だ。朝遅刻しかけたんだ。一日に二度同じ相手にそれやるのはマズいだろ」


「……マジメだなぁ、お前は」


 俺とグレンは待ち合わせ場所である王都の関所付近で、そんな会話を交わしていた。

 ああそうだ。絶対に遅刻なんてできるか。特にリーナに何言われるか分からねえ。アイツ基本ザクザクオブラート包まず色々言ってくるし、仮にオブラートに包んでもガチガチに固く丸めて剛速球投げてくるからな。

 アリサにも流石に二度同じ事をすれば苦笑いでもされそうだし……うん、早く来るに越した事はねえよ。


 ……まあ確かに時間はありあまる形になったのだけれど。


「そういやクルージ」


 グレンはそうして発生した暇を潰すような感じの雰囲気で俺に言う。


「その刀、ちゃんと使ってんだな」


「ああ。すげえしっくりくるしさ。ありがたく使わせてもらってるよ」


 と、そんな感想を返した所でアスカさんとの会話を思い出した。

 そして思い出せば流石に聞かざるを得ない。


「……なあグレン。ちょっと聞いたんだけとさ……この刀、無茶苦茶高価な物らしいな」


「そうだぞ」


 グレンは頷いた。


「倶利伽羅シリーズ、衝牙。まあ値打ちにしちゃとんでもねえ物だぜソイツ」


「いや、まあ今更なんだけどよ、こんな高価なもん貰ってよかったのかよ。こんなもん絶対家宝みてえなもんだろ」


「まあそうだな。色んな巡り合わせで、本来到底手が届かねえ様な俺の元に転がってきた家宝みてえなもんだよ」


 グレンは笑ってそう言う。

 ……いや、本人もそんな認識なら尚更まずいだろコレ。

 だけどグレンは言う。


「でも大事に飾っとくのもいいけど、やっぱ刀ってのは使われてなんぼだって思う訳だ。俺だって鍛冶師の端くれだからな」


 そして、とグレンは言う。


「だとすりゃ刀使わねえ俺の手元にあるよりクルージ。お前が持ってた方が良いだろ」


「……良いのか?」


「いいんだよ。俺がそれでいいって思うんだから、それでいいんだ」


 それに、とグレンは言う。


「市場価値があるかは分からねえが、最終的に俺の打った刀が一番いい刀になる予定だからな。惜しむ事なんかねえ」


 改めてそんな事を聞いて思った。

 多分こういう奴が大成するんだろうなって。

 だから俺は未来の巣合で鍛冶師に頼み込む。


「じゃあグレン。もしこの刀が駄目になったら、その時はお前が作ってくれよ」


「え、いや駄目にすんなよ」


 うわぁ……すげえ真顔。


「倶利伽羅だぞ。倶利伽羅シリーズの刀だぞ? それ駄目にする前提で使うなよいやマジで。というかそう簡単に駄目にならねえから。倶利伽羅シリーズの強度なめんなよ?」


 ああ、これ割とマジでガチな説教だ。


 ……そんな訳でガチな説教があったため、結構な時間を潰す事ができた。

 そしてそれでも残った時間を何に費やしたのかと言えば……俺達のパーティーの話だ。


「そういえばリーナがアリサの事を圧倒的エースって言ってたけどどれくらい強いんだ?」


「……どれくらい、か」


 俺は少し前のあの戦いを思い出しながら言う。


「まあ色々あって二人で魔獣を100体以上相手にしなきゃいけなくなったんだけど、その時八割方一人で相手にして無傷で生き残る位には」


「え、それもう最強クラスの戦闘力持ってんじゃん」


「そ、持ってる……やべえよな俺のメンツ……」


「ああ、やべえな」


「せめてお前位フォローしてくれぇ……」


 いやまあ確かにヤバイんだけどさ……お前までストレートにそう言うのかよ。


「まあでも俺達はまだアレだ。発展途上だしな。ガチればこれからいくらでも強くなれる」


「グレン……」


 よし、ナイスフォロー。


「でもまあアリサの方が年下なの考えると、向こうの方が伸び代ありそうだがな」


「それ言わなくてもいいだろぉ……」


 なんで上げて落とすんだよコイツゥ!。


「いや、フォローしてやろうかと思ったんだがな、それで危機感失ったら最悪だろ?」


「なにそれ厳しさ? 優しさ」


「どっちもだよ、まあ頑張れや。お前もセンスねえ訳じゃねえんだし、どっかで跳ねるって」


「そ、そうだよな。頑張るぞ俺」


 そう思わねえとやってられねえ!


「おう、その域だ」


 そう言ってグレンは笑みを浮かべ……そして真剣な表情を浮かべて言う。


「マジで頑張れよ。お前はメンツがねえ云々言ってたけど、そもそもお前が居て初めて成立するパーティーなんだ。お前がしくじって死んだりでもすれば全部瓦解する」


「……」


「そしたらお前よりも遥かに強いアリサも、あっさり死ぬかもしれない。今までは生き残れたかもしれねえけど……なんか見てたら、今のアリサは普通にどこにでもいる様な幸せそうな奴だったからな」


「……何が言いてえんだよグレン」


「生きる事を楽しめない奴と楽しめている奴。その二人が同じだけ生きる事に終着すると思うか?」


「……」


 言いたい事は分かった。

 言われてようやく気付いた。少し観察しただけでその答えに辿りつけたグレンの洞察力は、本当に化物染みてると思う。俺はとんでもない奴を親友にしてるんじゃないかとさえ思う。

 ……多分グレンの言う通りなのかもしれない。


 ……今、アリサに不運スキルがそのまま振りかかったら。

 少なくとも今までより今の方が、生きる事が楽しいと思っていたら。

 果たして振りかかるアリサにとっての不運、不幸な出来事は、今まで程度で済んでくれるのだろうか?


 それは分からない。

 いくらグレンの洞察力や頭の回転が凄いからといって、それでも結局の所推測の域をでない。

 そうなってみないと分から無い。

 だけど分かるのは、そうなってからでは遅いという事。

 それが立証できる様な状況にしては絶対にいけない事。


 俺が死ぬような事があってはならないという事。


「だから頑張れ。死なねえように死ぬ気でな」


「……ああ」


 分かってるよ。


 ……分かったよ、本当に。

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