5 受けるか否か 下
「で、どうするっすか、先輩」
アリサの言葉に続くようにリーナは言う。
「私もアリサちゃんも、先輩が受けたいなら受けるべきだって思ってるっす。後は先輩がどうするかっすよ」
……どうするべきなのか。
パーティー全体の事を考えればこの依頼は受けるべきではない。俺の私的感情に二人を巻き込む事になる。
……二人が良いと言ってくれていても、結果的にそういう事である事は分かっている。
だけどそれでも……背中を押されたように、受けようとしている自分が居た。
その位には……俺はあの人達を助けたかった。
それだけ。ああいう酷い事になる前に貰った物は大きかった筈だから。
だけどそう考えていて、自身の感情に一つの違和感を感じた。
……本当にそれだけか?
……本当に理由はそれだけなのか?
自分の事なのによく分からないけれど。そんな綺麗な理由だけが原動力になっている気がしなかった。
……最も最初からそれこそ罪滅ぼしの様な、そんな理由もあったのだから、初めから綺麗な物では無かったのだけれど、それでも……そういった理由以外の何かがある気がしてならなかった。
そしてその理由がなんなのかは分からない。答えは出ない。
だけど答えが出た事もあって。
「じゃあ……この依頼、受けてもいいか?」
この依頼を受けるか否か。
その答えは決まった。
そして俺の決定に二人は言う。
「決まりっすね」
「じゃあ受付にいきましょうか」
そう言って二人は受付の方へ向けて歩き出す。
「……理解できませんね」
と、ルークが言う。
「察するにクルージさんが受けていたのは村八分みたいなものですよ。それをした相手を……あなたはどうして助けたいと思えるんですか」
「まあ言いたい事は分かるよ」
一拍空けてから俺は言う。
「……まあ俺自身完璧には分からねえし、これが他人事だったら尚更分からねえだろうな。多分スタンスはお前と同じになると思う」
……それでも。
「それでも16年間あの村で生きてきたのは他ならぬ俺だからさ。そりゃ俺にしか分からねえような。俺自身にしか分からない潜在的な何かってのはあってもおかしくないだろ」
「……まあ確かに、そういう事もあるかもしれませんね。あまり不運な経験はした事が無いので憶測でしかないですけど」
「順風満帆な生活送ってんだな」
「一度刺された以外は順風満帆ですよ」
やっぱり経験談かよ。笑って言うなよなマジで。
と、そんなどうでもいい軽いやり取りの後、ルークは再び少し真面目な表情で言う。
「まあ本当にその依頼を受けるつもりなら……ちゃんとあのリーナって子は守ってやらないといけないですよ」
「……分かってる」
「ならいいです。そもそもあの依頼を受けるにしても、あなた方にはリーナを一時的にパーティーから外して依頼に臨むという選択肢もあった。それをしなかったあなた方にはそれを全うするだけの責任がありますから」
……まあ確かに言われてみればその選択肢もあったわな。
流れでこういう風になったけれど。言われるまで気付きもしなかったけれど。確かに本当にリーナの身を案じるのならばそれが一番良かったのかもしれない。
極端な話、リーナの金欠に関しては俺達がある程度はどうこうできるのだから。無理にBランクの依頼なんかに連れていく必要性なんてのは無いのかもしれない。
だけどそんな事を今更考えた所で、もうそんな事は言いだせないし。
そもそも最初からその案を考えていた所で、言えていたかどうかは怪しい所だ。
元々実力差とか経験とか、そういう要素を度外視して、いわば慣れ合いを最重視した様なパーティーが俺達だ。
なのに初めての仕事という今日、こういう事でリーナを外すというのはその前提条件を完全に無視している様で。それはどこか俺達のパーティーという物を壊す様な行為にも感じて。
それをするならば、この依頼を受ける事自体がそれこそ大きな間違いで。
だから俺達の場合は三人でやる事を前提で受けるか受けないか。基本的にはその二択なんだ。
……だから。自分でそう考えて。雰囲気にも飲まれて。気付いていてもそういう事は言いだせなかったのだと思うよ。
「ちゃんと責任持って三人で仕事終わらせて三人で帰ってくる。丁度俺とアリサが前衛でリーナは魔術師で後衛だ。リーナへの攻撃は全部俺達で止める」
「それは心強い……そうか、あの子は魔術師か」
ルークはどこかリーナに興味を持ったようにそう言う、
「そ、魔術師。駆け出しだけどな。そういやお前はどういう風に戦うんだ?」
「魔術師ですよ」
なんか反応みる感じそんな気がしてたよ。
だとしたらちょっと聞いておきたい事がある。
「なら丁度いい。本職の魔術師に聞きたいんだけどさ……本屋に初心者向けの魔術教本売ってんじゃん」
「売ってますね」
「素人が一週間で全ての魔術習得したとしたらどう思う?」
「いや、そんな化物染みた人間いる訳がないじゃないですか」
ハハハとルークは笑う。
そんな本職の。それもSランクの依頼を受けられる様な実力者の言葉を聞いて俺も苦笑い。
そして俺の苦笑いを見て、何か察した様に俺とリーナを交互に見ながら言う。
「え、まさか……冗談ですよね?」
「……冗談で態々こんな話聞かねえよ」
「……これは大変だ」
そう言ってルークは俺の肩に手をポンと置いて言う。
「これは本気で頑張らないと、そう遠く無い未来にあなたが足手まといになってますよ」
「……うん、マジでこれ頑張らないとヤバイ奴だよなぁ」
ほんと、そう遠くない未来にアリサと肩を並べている気がしてならない。
と、そこで少し先に動きだした二人が俺が来ていない事に気付いてか振り返って言う。
「おーい先輩。何やってんすかー」
「クルージさん、早く行きましょう」
「お呼びですよ」
「ああ、そうだな」
そう言って俺も動きだした。
そして最後に後ろから声を掛けられる。
「まあまずは今日の所を頑張って」
「分かってるよ」
未来の為に頑張るのは当然だけれど、まずはその未来に繋ぐ為に今日を頑張るのが先決だ。
向かうのはBランクの依頼。
その選択が正しいのかは分からないけれど。選んでよかったのかは分からないけれど。
それが正しかったと言える様に。選んでも良かったと言える様に。
頑張っていこうと思うよ。
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