4 受けるか否か 上
そんな騒がしい一悶着があった後、俺達は改めてその依頼書と向き合う事にした。
「それで、どうしますかね」
アリサはそう言った後、一拍空けてから俺に問いかけてくる。
「クルージさんは、どうしたいですか?」
……どうしたいか。
その答えを出すのは難しい事ではない。
「俺にどうにかできるなら、どうにかしたいって思うよ」
少しだけ躊躇いはあったけれど、それでも俺はそう思う。
「……え? 先輩それ本気で言ってるんすか?」
そして俺の言葉に違和感を覚えたのはリーナだった。
「……一応本気のつもりだよ」
「え、でも、だって……先輩、実質的にあの人達に追い出されてるんすよ」
「……そうだな」
「私みたいな部外者に、あることないこと言ってんすよ?」
「……まあ、それは流石にキツいけど、それも分かってるよ」
分かった上でだ。
「……それでも俺はあの人達を助けたいって思うんだ」
理由としては簡単だ。
昨日の事もあるしそれに……結局起きている事全ては勘違いから来ている物だから。
……その、筈だから。
だとしたら……俺の中であの人達に手を貸す事を躊躇っても、手を貸さない理由にはならない。
だってそうだろ。
そんな勘違いや、洒落にならない不運が連続して起きたような状況下ではきっとまともな判断なんてできる筈がないから。
……そんな中で出てきた答えが人間の本質である筈がないから。
そうだと、思いたかったから。
「そうっすか」
そして俺がそんな理由を告げる前に、リーナはどこか納得したような、諦めた様な。そんな声音でそう言った。
「まあ先輩がそうしたいっていうのなら、それは先輩には先輩なりの考えがあるんすよね。話を中途半端に聞き齧っただけの私が何か言える様な話じゃないっすかねこれ」
そしてそう言ったリーナはだったら、とその依頼書を掌で軽くバンと叩く。
「この依頼、私達で受けますか」
「ああ……っていやいや!? ちょっと待てちょっと待て」
実際にできるならそうしたかった俺はリーナの言葉に思わず一度は頷いてしまうが、それでも慌てて訂正に掛かる。
「ん? 何か不都合あるっすか?」
「あるだろ見てみろよこれ」
と、依頼書をある一文を指差す。
「お前これ、Bランクの依頼だぞ」
簡単な依頼がないのならば、俺達が受けることのできる依頼の中で最も難易度が低い物を選ぶべきである。
それがCランクの依頼。Bランクのこの依頼を受けるのは得策ではないんだ。
だから素直にこのパーティー構成で最も適したCランクの依頼も依頼を受付で斡旋してもらう。これが多分正解なんだ。
だけどリーナは言う。
「でも先輩、それを受けたいんすよね」
「……ッ」
「だったらそれは受けないと駄目っすよ。具体的に何が先輩をそこまで駆り立てるのかは知らないっす。だけど……お金の為じゃ無くてやらないといけない事だって思ったなら、やらないと絶対後悔するっす」
「……」
「大丈夫っすよ。何せ私はSランクの逃避スキルを持ってるんすから、CでもBでもどんと来いっっすよ」
そう言ってリーナは胸をトンと叩く。
そんなリーナを見ながら……俺は言う。
「いいのか? 本当に」
「しつこいっすね。私が良いって言ったら私にとってはいいんすよ」
「ボクもそれでいいと思います」
アリサもリーナの意見に乗る。
「クルージさんが受けたくて、リーナさんがそれでもいいっていうんでしたら受けたって良いんじゃないですか。大丈夫です。リーナさんは私がフォローしますし」
それに、とアリサは言う。
「……多分クルージさんは、これ受けないと駄目ですよ」
まるで昨日の事を思いだしながらというように、アリサはそう言った。
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