3 疫病神のいなくなった村

「へぇ、リーナさん行った事あるんですか」


「まあ本当に数日だけっすけど、それなりに思い入れがある位にはいい雰囲気の村だったかなって思うっすね」


 と、二人の会話を聞きながら考える。

 ……まさか昨日の今日でこんな依頼を見付けてしまうとは思わなかった。

 昨日は本当に色々と抱え込む形になっていて、その多くは実際に命を落とす事になったアレックス達の事だったけれど、それでも俺という人間が大きく影響を与えていた。そして影響を与えられていたのは故郷の村も同じ事で……そうやって思い詰めていた対象絡みの事がこうして翌日に目に映るとは、どんな巡り合わせだよとは思う。


 そして……そんな事を考えながら辿りついた感情は、大丈夫だろうかという心配だ。


 村には冒険者になる前の俺がそうだったように、ある程度の戦闘技能を持った人間は複数人居る。だけどこうして離れたギルドへ依頼している時点で、その戦力では解決に至っていないという事になる訳で。

 ……だから、心配なんだ。


 ……俺を結果的に追放したのと変わらない様な故郷なのに。


 それでも心配になるのは、昨日あんな事を考えていたからだろうか。まだ引きずっているからだろうか。


 ……いや、そうじゃない。それだけじゃないという事位は断言できる。

 ……だってあの人達は――


 と、そこまで考えた所でリーナが言う。


「……しっかし、疫病神って呼ばれてる人が居なくなったって聞いたのに、それでもえらい事になってるっすね」


 そんな……少し俺のトラウマを抉る様な言葉を。


「疫病神……ですか」


「らしいっす。なんでも今から二か月位前まで故意に人の運気を吸い取って自分の物に変えるようなスキルを持ってる人がいたらしくて、その人がいなくなってから平和って話だったんすけど……そんな酷い人追い出してもそれって中々大変な所っすよね」


 ……ちょっと待て、故意!? なに俺そんな風に思われてんの!?

 いや、まあ確かに故意にそういう風にしないとおかしい位には酷い事が起き続けてたし、この前の俺達が

そうだったように、何かしらの要因でスキルの効力が俺の周囲に齎される類の物じゃないという仮説を立てられればそういった答えに辿り着く可能性もあるだろうけど……マジか。


 ……流石にキッツいなそれ。


 と、村の名前を知らなくても俺の過去を聞いてるアリサが。そしてアレックス達との一件で色々と察したのかルークが、それぞれ何かに気付いた様な表情を浮かべる。

 そしてアリサが慌ててという風に小さな声でリーナに言う。


「ちょ、リーナさんリーナさん、その辺にしてください! ほらクルージさんみてください」


「え? なーんでそんな苦しそうな顔してるんすか。今の話でそんな顔する要素なんてどこに……あーもしかしてアレっすか? 実はその人先輩だったりとか」


「ぅ……ッ」


 分かってる。流石に変な勘違いはしない。

 リーナは悪意を持ってそんな事は絶対に言わないだろうし、そもそもSSランクの幸運スキルという情報しか知らないリーナが、本気でその誰かと同一人物だって思うわけがないのだ。

 だからそれはただの、場を和ます為の冗談だ。分かってる。


 だけどその冗談が毒を塗りたくったナイフの様に突き刺さる!


「……え、先輩、マジでどうしたんすか」


「リーナさん実は……」


 と、アリサがリーナの耳元で何かを囁きだす。

 するとみるみる内にリーナの顔から、さーっと血の気が引いていってるのが分かった。


 そして。


「す、すみませんでした!」


 見事に綺麗なジャンピング土下座の完成である。


「絶対私傷口抉る様な事言ってたっす! ほんとすみません! すみませんっした!」


「あ、おいちょっとリーナ!」


 多分リーナは本気で謝ってる。真剣な謝罪の形がそれだ。それは分かってる。

 分かってるけど……こう、なんで俺の周りの奴ガチな謝罪が土下座なんですかね。


「おい、あの野郎女の子に土下座させてんぞ」


「あ? マジじゃねえかクソ野郎が」


 ほら、ギャラリーできるじゃん。

 俺完全に悪者じゃん。


「おいお前ら! 違うからな! 別に俺が土下座しろとか言ったんじゃねえから!」


「なあそういやこの前、遠くからちらっとしか見てねえんだけど、街中でそっちの子にも土下座させてたぞソイツ」


「「「なぁにぃ!?」」」


 おい誰だか知らねえが余計な事言うんじゃねえよ!

 やだ、俺がどんどん外道でヤベエ奴になっていく!


「ま、まさかこの野郎! 女の子に土下座させて快感を得る特殊性癖持ちなんじゃ……」


「「「ひぇ……ッ」」」


 どんどんヤベエ奴になっていく! 皆凄い勢いでどん引きしてる!

 ……つーかなんでお前までどん引きしてんだよルーク! 経緯知ってんだろお前は!

 くそ、ふざけんなよコイツら!


「馬鹿か! そんな頭おかしい性癖持ってる奴いる訳ねえだろうが!」


「……え?」


 群衆の中からポツリとそんな声が聞こえた。

 ……え、何? マジでいるのそんな奴。怖いんだけど。


 とりあえずこの後アリサとリーナが弁解してくれて事無きを得た。


 ……得てくれて本当に良かった。

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