38 差し込んだ光 上
「え、いや……駄目だろ、そんなの」
その言葉に、思わずそんな言葉が素で出て来た。
自分本位。それが良い事だとは思えない。
だけど、アリサは言う。
「ボクは駄目だなんて思いませんよ」
冗談などではなく。こちらに気を使っているのではなく。ただ本当に思っている事を口にしている様な、そんな表情で。
「確かに自分勝手だとか、自己中心的なのは良くないと思います。だけど……程度にもよるでしょうけど、自分を優先するのはそんなにいけない事ですか?」
「……」
「人間は機械じゃないんですから。余程の事がないと常に他の誰かを自分と同じ様に考えるなんてできませんよ。まず自分がいて、それから他の人がいるんです。もし常にいかなる時も他の人を自分と同じ様に考えられる人が居たとしたら……そういう人が聖人だとか、そういう風に言われるんだろうなって思います」
そしてアリサは言う。
「大事なのは、その上でどれだけ他の人を思いやれるかじゃないんですか?」
「そう……かな?」
「少なくともボクはそう思いますよ。だからボクはクルージさんが悪かっただなんて思いません」
むしろ、とアリサは言う。
「ボクはクルージさんが凄いなって思うんです」
「凄い……俺がか?」
この流れでそんな事を言われると思わなかった。
だってそうだ。悪くなかったとしても、間違いなく良い事でもない筈だから。
多分俺のやってきた事は、褒められた事ではないだろうから。
だけどアリサは言う。
「強いモンスターと戦うのは怖いです。山賊に住んでいる村を襲われるのもきっと凄く怖い事なんです。それは多分、まず自分が助かりたいって強く思ってもおかしくはない筈なんです。そんな中で……誰も死なせない位に強く、クルージさんはその人達が助かる事が幸運だって思った訳じゃないですか」
「……ッ」
「大体、程度がどうであれそれが幸運だってスキルが反応する位思えた時点で……それが悪い事の訳がないじゃないですか」
だから、とアリサは言う。
「クルージさんは悪くないです。ちゃんとクルージさんは、そうやって思い詰める位に大切に思ってた人達を守れてましたよ」
「……」
アリサの言ってくれている言葉は本当に嬉しくて、素直に頷きたい様な言葉で。
だけど……俺はその言葉を受け入れてもいいのだろうか?
アリサの言ってくれた言葉は正しいのかもしれないけれど、それでもやはり背負うべき責任を放り投げている様な気がして。結果的に人が死んでいるというのに、それに背を向ける様な事の気がして。
だからすぐには頷けなかった。
そしてそんな俺を見て……アリサは優しい声音で言ってくれる。
「まあ難しいかもしれないですね。きっとこの位で立ち直れない位に優しいからこうなってるんでしょうし。そもそも考え方ってそう簡単に変えられる物じゃないですからね」
「……悪いな、色々言わせといて」
「いえ、いいんですよ。でもまあ考え方を変えるのは難しいですけど……でもまあこれだけは覚えておいてください」
そう言ってアリサは言う。
「もしクルージさんの言う通り、自分本位な考え方を駄目な事なんだって事でしたら……ここにも仲間はいますよ」
「……仲間ってお前」
「仲間ですよ。実は僕まだちょっと運が悪いんですよ。他の人に影響が出ない位に不運スキルを相殺してもらっているのに。ほら、この前も馬車にひかれそうになりましたしね。それってつまり……他の人よりまず自分が幸せになりたいって考えているからじゃないですか」
「……」
「だからクルージさん。それで気休めにもならないかもしれないですけど……どうしようもない人間は此処にもいます」
優しい笑みを浮かべて。
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