37 雨の中 吐き出した罪
とにかく、このままではいけないと思った。
とにかくアリサに余計な心配を掛けないように。取り繕わないといけないと思った。
だから俺は普通の表情を作ってアリサに言う。
「え、アリサ。なんでこんな所にいんの?」
平常心で。平常心で。平常心で。取り繕うとした。
……だけど、アリサの表情は険しい。
「何か……あったんですか?」
多分俺の表情は俺が思っている以上にぎこちない物だったのだろう。
平常心を意識していても、多分そもそもそれを意識している段階で平常心でいられていないのだから。
だけどせめて。せめて言葉位は。
「いや、別になんでもねえよ」
言葉位は何でもない風に装いたかった。
とにかくそれでこの場を乗り切ろうと必死だった。
ここをなんとか乗り切って、明日普通の表情をしてそこからまたいつも通りやっていければいいなと思っていた。
だけど……そもそも俺はその言葉ですらいつもの様に発せられていただろうか。
震えていたり、しなかっただろうか?
それは分からないけれど、多分何か失敗してしまったからアリサの表情は暗いんだ。
「……そんな訳、無いじゃないですか」
「いや、そんな訳ないってお前……」
「今クルージさんは、自分がどんな顔してるか、分かっていますか?」
「……ッ」
「どれだけ声に生気が籠ってないか、分かってますか?」
結論を言えば何一つ俺は取り繕えていなかった。
酷い表情を浮かべて。酷い声で。全く噛み合わない言葉を吐く。
明らかに何もない訳がないような、そうとしか見えない様な状態で俺はアリサと接していたんだ。
それでも俺はアリサに嘘を通そうと思った。
やはりこんな重苦しい事にアリサを巻き込みたくはなくて。
余計な心配を掛けたくはなくて。
だから何でもないって言おうと思ったんだ。
「……」
だけどその言葉はどうしたって出てこなかった。
出てきてくれなかった。
そしてそうこうしている内に、アリサが手を伸ばして持っていた傘に俺を入れる。
「ボクなんかで良ければ話、聞きますよ?」
「……ッ」
分かっている。これに頷けばアリサに対して酷く重苦しい話をする事になる事位。
だけど、決壊は早かった。
それだけ俺は追い詰められていたのかもしれない。
とにかく俺は誰かに、話を聞いて欲しかったんだ。
「……実はな」
そこから俺は辿り着いたその疑問について、アリサに話していた。
うまく思考は纏まらなくて、多分きっとたどたどしく。
そうして俺がアリサに話している間、ただアリサは静かに頷き簡単な相槌を返しながら聞いてくれた。
そして雨の降る中、静かにその話を聞いてくれていたアリサは、俺が一通り話終えた所で静かに言う。
「別に、クルージさんは悪くないですよ」
とても優しげな笑みを浮かべて。
「……悪いだろ、どう考えても」
「……悪くないです」
そう言ったアリサは一拍空けてから言う。
「クルージさんのスキルは、クルージさんにとっての幸運が反映されるんですよね。だったら……少なくともそのアレックスさん達にはそれが反映されていた訳ですよね」
「でも、それでも俺だけが目に見えた恩恵を受けて、アイツらは恩恵を受けていないって誰もが勘違いする程度だった。それだけの差があったんだ。だとしたら……それだけ俺が自分本意な人間だったって事だろ」
「クルージさん。ひとついいですか?」
「……ああ」
「もしかしたら変な事言うかもしれないけど、聞いてください」
そしてアリサは一拍空けてから言う。
「……自分本意な人間だったら、いけないんですか?」
「……え?」
そんな予想だにしなかった言葉を。
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