17 それは酷く限定的な
「へぇ……探知スキルっすか。もしかしたら私をサクッと見つけられたのってそのおかげっすかね?」
今のところ。他にその虚言を訂正する者がいない中、リーナはその言葉を信じているようだった。
「いや、Dランクですから本当に役に立たないんですよ? だから偶然です。むしろクルージさんのおかげで運良く見つけられたのかなって」
そう言ってアリサは笑い、俺に視線を向けてくる。
まるで、話を合わせてくれと言わんばかりの。
「ああ、まあそうかもしれねえな。でもほら、アリサの探知スキルのおかげでもあるだろ」
とりあえず俺はアリサの望む通り、話を合わせる事にした。
……合わせない訳にはいかなかった。
だって流石に理解してしまったから。
当たり前なように普通に中心の席に座ったり、嘘を付いて自分を偽ったり。そうしてなんのマイナス要素もない普通の人間を演じようとしている理由は分かってしまうから。
とにかく壊したくないんだ。今のリーナとの関係性を。
嫌われるような人間でいたくないんだ。
とにかく今だけでも取り繕えば……今のまともな運気でいられるこの酷く限定的な状況下でだけは。守り通せるから。
……それすら無理でも、今この時だけでも守れるから。
……だったらもうそんなのは合わせない訳にはいかない。
無理だろ……そんなの。
「いやいや、全面的にクルージさんのおかげですって」
「いやいや、そもそも俺達はお前の探知スキルであの方角歩いてた訳で」
「じゃあもうお二人とも良いスキルって事でいいんじゃないっすか。私のスキルは自分にしか役に立たないっすけど、先輩やアリサちゃんのスキルはこうして私を助けてくれたっす。間違いなく私のよりドヤれるスキルっすよ」
そう言ってリーナは笑う。
「そ、そうですかね」
「そうっすよ! というか今日ずっと凄い事やってるのにアリサちゃん全然ドヤらないっすねぇ……マジ謙虚じゃないっすか。もっとドヤってもいいと思うっすよ」
「いやいや、別に世の中みんな事ある毎に常にドヤってるわけじゃねえんだって。お前じゃあるまいし」
「え、それ先輩には言われたくない……」
そうかもだけどお前よりマシだろ。
「とにかく! アリサちゃんはもっと自分を誇って良いっすよ」
「そう……ですかね?」
「そうっすよ! さあ言ってみましょう。復唱してください! 私はめっちゃ凄い! はい!」
「わ、私は……いや、ボクはめっちゃ凄い……」
「そう! 良いっすよ! そのいきっす!」
「いやよくねえだろ。それ堂々とマジで言ってたらスーパーナルシストじゃねえか!」
「まあいいっしょそれでも」
リーナは言う。
「アリサちゃんの場合は私みたいに虚言や虚勢じゃないんすから」
そんなふとでたリーナの言葉にアリサは……複雑な表情を浮かべていた。
そういう事を言ってくれて嬉しいんだってのは分かるよ。
だけど今まさに虚言を吐き続けているから。
そして俺も笑いながら、それでもどこかぎこちない表情を浮かべていたんじゃないかって思う。
だってそんなアリサに……俺がしてやれる事なんて殆ど何もないのだから。
「さて、じゃあお二人とも、今日はありがとうございました。ほんと助かったっす」
食事の後、今日のところは解散という話になった。
結局あの後もアリサの嘘が露見する事はなかった。一応近くに座っていた連中も色々と察していたらしく、こちらに何度か視線を向けてきたものの、嘘をバラしたりしてくる奴らはいなかった。そう考えると基本的に皆アリサのスキルを恐れて近寄らなかっただけで悪い奴らではないんだと思う。
ともあれ、一応は関係性が変わらないまま。友好な関係を気付いたまま、俺達は此処で分かれる事となった。
すっかりアリサと仲良くなったリーナがアリサにこの後どこか行かないかと誘ったのを、アリサが今から予定があると言って断った事でだ。
「じゃあまた今度。機会があったら一緒に仕事行くっすよ! あ、それとは別にアリサちゃん今度こそどこかに遊びに行くっすよ!」
「そ、そうですね。また今度どこか行きましょう」
アリサはそうぎこちない笑顔で言う。
……ぎこちない。当然だ。
それがちゃんとした笑顔で言えるのならば、今頃二人は此処で別れてなどいないだろう。
なにしろ予定なんてものはある筈がないのだから。
俺達はリーナの捜索を最悪夜まで掛かるという事を前提として動いていた。今此処にいるのは結果的に早く終わったからであり、本来予定など入れられる筈がないのだ。
だからそれもまた虚言。
アリサとリーナ。二人だけになった場合に、リーナに不運が振りかからないように。
全てが露見してしまわない為の、アリサなりに絞り出した嘘。
「約束っすよ! じゃあお二人とも、また今度!」
「じゃあなリーナ」
「お気をつけて」
そして、そんなやり取りを交わし、リーナが一足先に俺達の元から離れていく。
どこか上機嫌そうに。スキップしながら。
だけどそんなリーナとは対照的に、隣りに居るアリサはとても複雑な表情を浮かべている。
「……良かったのか? これで」
俺はアリサに問いかける。
「あんまり嘘を重ねすぎると、後で色々と面倒な事になるぞ」
「……それでも、今日は仲が良いまま終われました。次も頑張ります」
アリサは小さく笑みを浮かべながら言う。
「どうせ元よりクルージさんといる時しかうまくやれませんから。その限定的な時間でも仲良くできるなら、いくらだって、偽れるだけ偽ります。偽らないと此処から先、その限定的な時間にも繋がらないんです」
「……」
「リーナさんはボクなんかと仲良くしてくれてますから。いなくならないでほしいんです」
「……そう、だな」
それしか言えなかった。
分からない。考えても考えても。どうしたらいいのかが分からないんだ。
ただ気の合った同性の同い年の子と仲良くする。その間にある本来ある筈のないハードル。
それを超える為の術があるのかも。あったとして俺にできる事があるのかも。
俺には全く分からない。
分からないままこの日は俺達も解散となった。
ひとまずこの日は、何も問題が起きないまま。
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