29話 庇蔭

ガタン。


お茶が自販機からガタンと落ちる音がした。


「で、お前は何飲むんだよ」


隣で物欲しそうにしてる弓月ゆづきに僕はそう聞いた。


「ココア飲みたい」


「はいよ」


120円を自販機の小銭の入れるところに入れてポチッとココアのボタンを押す。


「あったかいけどそれでいいの?」


「あったかいからいいんじゃん!」


ガタンとまたしても自販機からココアが落ちてくる音が聞こえて、ココアを取ってポンっと隣に投げる。


「あっつい、あっつい!最悪っ!」


睨んできたけど知るもんか!人の金で食ってるんだ。これぐらいは罰当たりでもなんでもないでしょ。


「さっさと飲んで金返せ」


「絶対、柚和ゆわモテないね。うん。女の子にお金の返金を請求してくるなんて…」


「女も男も関係ない。お金より大事なものなんてないのさ!」


はっはっはーと高らかに笑ったら何故か憐れみの視線を頂戴した。


「もういい。それと、お金は返さなーい♪女の子と一緒に入れるだけで対価としては十分でしょ?」


「は?何言ってるの?お前さん。僕の貢ぐ相手はね、小学生と習わなかったのか?同年代に費やす金なんか一円もないわ」


「あーひっどい。てゆうかロリコンとか犯罪臭プンプンするよ、あー嫌だ」


こやつ!ロリコンを罵倒するか。成敗!しようとしたら、ワンサイドボブの髪型がふさりと揺れて弓月ゆづきのてるてる坊主みたいな顔がこちらに向いた。


「美味しいね♪あ、それとゴチになります」


にへらっと笑みを浮かべた弓月ゆづきを見てコイツっと思ったけどまぁここは見逃すことにした。僕寛大。


今よく見たらトップスにワンポイントTシャツでスリムベルト付きの黒の短パンにナイロン製の黒のニーハイに黒いローファーを履いていた。白黒黒黒で完璧部屋着ですね。


ニーハイなんかは絶対出る前に履いたと思われるけど。僕は一ついちゃもんをぶつけることにした。


「お前さん、そこはホットパンツを…」


「履かない。而もなんでホットパンツなんて知ってるの?引かれるよ、てか引くよ?」


「女性の娯楽の一つであるファッションを僕も学んで見たいと思ってさ。服の種類がわからないと好きな格好をしてもらえないからね!お前のそれ、絶対部屋着だし」


「当たり前じゃん。この弓月ゆづきさんに何を求めてるの?」


「純粋な笑顔とロリさ」


「死ね」


辛辣…僕と同じ性癖のロリコンはいないのか!僕も自販機で買ったお茶のキャップをキュと捻って回して開けてゴクゴクと飲んだ。自分で作る麦茶の方がうまいことが判明した。


「あ、もうすぐ着くよ。確か、ここのT字路を左手に曲がって真っ直ぐ行った先の2軒目が杏菜あんなちゃんの家の筈。標札あったのは覚えてるから見ればわかるはず」


「ほいほーい」


言われた通りに弓月ゆづきと二人で行き当たったT字路を曲がり直進に進んでいくと住宅街に出て2軒目の標札を見ると[舘野たての]とあったのでここで間違い無いと思った。


「着いたよ」


「うん。着いたな」


「チャイム押しなよ」


「嫌だよ」


「は?なんで?」


「いや、男の僕がチャイム押すなんてキモいだろ?」


「いや、用事あるの柚和なんだから柚和ゆわが押しなよ」


「インターホン押したら僕死ぬ病気なの!」


「…はぁ…知らないけど押すからね」


ピンポーンと弓月ゆづきがチャイムを押してインターホンの音が聞こえてきた。

なんか、緊張する。人の家のインターホン押した後ってなんかそわそわするんだ。


「出ないね。帰ってないとか?」


「いや、流石に帰ってるだろ」


「ピンポン連打しようか」


ピピピピピンポーン。おい迷惑だろ。やめなさい。行儀が悪いわよ弓月ゆづきちゃん。出てきたらまずは土下座からだな。おし、四つん這いの体勢の準備だ!


「こんなにやってるのに出ないなんて、可笑しいね」


すると中でドゴン!っと大きな音がした。あ、いるじゃん。中で転んだのかな?それから30秒くらい待っても全然開かない玄関を不思議に見つめていたら弓月ゆづきが家の敷地に入っていって玄関を開けやがった。


「おい!何やってるんだ!僕の土下座プロジェクトが!」


「だって、さっきあんな大きな音がしたんだからいるのは確定でしょ?でも出てこないってことは何かあったんだよ、お邪魔してまーす」


何が、お邪魔してまーすだよ。と言いつつ僕も入る。ていうか鍵かかってなかったんだ、不用心だな〜。


「あんなちゃーん。来た、よ?」


ん?なんで居間の方見たらそんな顔になるんだ?

僕もチラッと弓月ゆづきをチョコンと押しのけて顔を出して伺う。


「ワオ!お取り込み中らしいですよ。弓月さん」


「そう見えるんだ。私、もしこうなって柚和ゆわに助けられても惚れる気しないわ」


リビングと居間が混同になってる居間の入り口でトークしている僕と弓月ゆづきに気づいたのか176センチくらいの男の人がこっちに詰め寄ってきた。


「なんだよ、お前ら。勝手に入ってくるなよ。人の家だろ?」


「いや、大きな音がして心配で入ってきたんですけど?それよりもいるんだったら開けてくださいよ、何してるんですか?」


弓月ゆづきが言った。


「うるせぇよ。でてけ」


「コイツはいいとして僕は用があって来たんですけどー。そちらにいる杏菜あんなさんを少しお借りできませんか〜?」


脹脛ふくらはぎ弓月ゆづきにチョコチョコ蹴られるけど気にしないもんね。


「今はお取り込み中なんだよ!早く出て行ってもらえるか?痛い思いするぞ?」


「いやですから、30秒で終わる用事ですから。あなたは杏菜あんなさんの家庭教師ですよね?お勉強してたところ申し訳ない気持ちは多々ありますがどうか寛大な配慮にてお許し願えないでしょうか?あ、痛い思いは嫌です。初めては女の子がいいので」


「その30秒も勿体無いんだよ。さっさと帰れ。…いや、待て。お前ら、もしかして聞いてたのか?だったら口封じしないとな」


こっちの話聞かないくせに自分は質問して回答得られるとか思ってるの?何様ですか?殿様ですかな?僕神様ですけど。それと、えー聞いてましたよ?お熱いお言葉を。一糸纏わぬ杏菜あんなを見られなかったのは残念だけどやってたことはとても熱いないようでしたね。


「残念ですよ。ほかの家庭の事情なのでそっちには手を出しませんが僕たちにまで被害が及ぶなら仕方ないですよね。おし!強引に失礼しまーす」


男の人の脇をくぐり抜けて杏菜あんなのところに行こうとしたら肩を掴まれて思いっきり男の人の方に振り向かされた。キ、キスとかまだ早いよ…。


「おい、テメェ待て!」


あちゃー。ドンマイです。ご愁傷様です。うん。


バン!と男の人の頭に弓月ゆづきの上段蹴りがクリティカルヒット。そして僕が股間にダイレクトアタックを仕掛けたらチーンと音がしそうな感じで沈んだ。


「あ、やっちゃった。ま、許されるよね?」


「僕は神だから許されるけど、お前はどうかなー」


「そん時は、柚和ゆわもろとも道連れだ!」


キャーなんて言ってると、杏菜あんなさんが口を開いた。


「えっと、柚和ゆわく、ん?なんでいるの?不法侵入?」


おい!それを言うならコイツもだぞ。


「用事があって来たって言ったでしょ?これ、電話番号間違えてたから正しいやつだから宜しく」


杏菜あんなの手をとり、ポンっと手の上に電話番号が書いてある紙を乗っけた。


「あ、あの!」


「おし!ちょっとまった。その前に、お邪魔してごめんなさい!それと勝手に家に入って!」


おし!決まった!後方倒立回転を決めた土下座を成功させた僕は庇ったことを隠すのも含めて謝罪をしたのだった。


「どうしようもないね。柚和ゆわは」


おい。痛い。痛いぞ。さっきから。弓月ゆづきよ。神である僕を足蹴にするな。何様だ!ん?女神様?ひー。


「なんだと?誰のせいで土下座してるんだ!」


「正しい電話番号渡してたら土下座してないでしょ?」


「やってしまったものは仕方ない!お前だって顔面蹴っ飛ばしてたろ!」


「結果論だし、弓月ゆづき悪くないし」


「言い逃れするつもりか!貴様!」


なんてやってると杏菜あんな


「うるさい。お静かに!それと、弓月ゆづきちゃんも、柚和ゆわ君もとりあえず、ありがとう」


そう言ってニッコリと笑った。うん可愛い。

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