30話 そんな小さな事でも

「んで、あなたは何をしていたのですかな、杏菜あんなさん」


現在、尋問タイム。正座をして弓月ゆづきと僕に向かい合ってる杏菜あんなはしょぼくれた顔をしながら訳を話した。


「ん!?ていうことは杏菜あんなさんはビッチなのか!?」


「違うよ!私まだ清らかだもん。体を求められただけであって誰ともやってませんしそれに、そんな行為したこともありません!一応中学生だよ!?」


「同級生だけど、既にやってたら私の先輩だったわ…杏菜あんなちゃん、半端ない」


こら、そこ。褒めるな。褒めていい案件でないぞ?同級生以外にも、高校生とかに教えを願っていたなんて…余程僕と弓月ゆづきに蹴られて玄関に放り出された家庭教師が嫌いなんだな〜と実感した。


親の事情については僕から話さないで、と言ったので家庭内事情に関しては僕と弓月ゆづきは全く知らない。無理に話したくないことを話さなくていいという僕のちょっとしたまぁ、配慮だ。それに、今回の件の起因となった元を聞いただけであって根元から僕が解決する気は更々ない。


ま、助けを求めてきたら応じるけど。愛の告白を対価に…ゲヘヘ。


でも、もし仮にこの問題を根本から解決する場合どうすればいいだろう。


まず、家庭教師がのびてる事に関しては寝てるとでも正当防衛でも成り立つ。向こうは現場を見てないわけだから否定することは不可能。仮に家に入ってることを指摘されても杏菜あんなに招かれたとでも言えば筋は通る。


まぁ、僕も子供だ。大人が持ってる権利と力には対抗できる手段が限られてるくるからその範囲で対応しないといけない、そう杏菜あんなに直接言われない限りは。


「さて、と取り敢えず今日はどうする?あれは一先ず外に放置だ。今頃、頭と股間蹴られた気持ち良さにグースカ寝てるよ。いい夢見てるな。両親とも仲違いしてるならあれは問題だけどそれなら一層の事弓月ゆづきの家に泊まっちゃえば?」


「そんな!迷惑だよ!」


「あー大丈夫大丈夫。こんなやつのことなんか気にしなくてもって危な!何するんだよ!僕と杏菜あんなさんの二人の会話を邪魔しないでくれ!ケっ」


ボックスティッシュが飛んできた。人の家のもん勝手に投げるな。ばあちゃん麦茶入れてくれた買ってきてお前はまた一から教育されてろ。


「私にも決める権利あると思うんだけど?ねぇ?まぁ、別にいいんだけど」


「ま、こう言ってるし泊まっていいんじゃない?うちの学校は泊まるなとか言ってるけどバレなきゃ問題にはならないし。ここにいる奴は全員事情を知ってるからいうつもりもないし。うんいいじゃん泊まっちゃえ」


「…本当にいいのかな…両親が捜索願いでも出したら…」


「そん時はそん時だ。一応、手助けはするよ。僕としては杏菜あんなさんの両親は捜索願いどころか気にもかけやしないんじゃないかなと思うけど」


「…うん。そうかも、いや絶対にそうかも」


「ま、1日2日いなくなったところで気にしないでしょう!それよか、おい、弓月ゆづき


「やっとあたしの事名前で呼びやしたね?あなた♡」


「…………玄関できっと気持ちのいい夢でも見てる教師さんの始末よろ」


こいつのおふざけは気持ちスルー。杏菜あんなさんに対する処置はこれが正解なのかわからないけどきっと正解もクソもないんだろう。いや、きっとこれは正解とは程遠い解決なんだ。


「いや、やだよ。柚和ゆわがやってよ」


ん?聞き間違いかな?「柚和ゆわがやってよ」って聞こえた気が…


柚和ゆわがやってよ」


「よし、二人で運ぼうか!弓月ゆづきちゃん?」


半分ニッコリ笑顔の半分脅しを含ませた笑みは十分に効果を発揮して弓月ゆづきを動かすことに成功したようだ。何より。


杏菜あんなの家の玄関を開けると、目の前で横になってる先生が視界に入っきて思わず笑ってしまったけど仕方ない。目立つ外傷もないし大丈夫だね。


「この先生は、教えてたら寝てしまったという設定にしよう。起きた後にあれこれと証明しようとしても実際に寝てることが証拠として確定済みなんだから意味ないし。親がもしきたらそう言えばいいと思う。写真でも撮っておけ」


「さて、運ぼう!せーの!重!」


あ!ヤバイ落としちゃった。ま、起きてないし結果オーライやよね!

でも、落とした原因はわかっております。


「おい、弓月ゆづき次、手を離したら…お前のとこに刺客を送るからな」


「あ、わかった。やりまーす。弓月ちゃん、柚和ゆわの為に張り切ります!」


「よし、よろしい」


こいつのところに、何人もの女に飢えた男を送り込むことを材料に契約はここに結ばれたようだ。


「おいしょ、と。とりあえずソファの上に寝かせといたから。まぁ、ふつうに見たら職務怠慢ですね。これは」


「ありがとう…あと、これ。私のメールアドレス」


annasann0324@dokomo.ne.jpと書かれた紙を杏菜あんなから渡された。


「ほい、どうも。さて、と僕はお暇するよ。その人絡みで何かあったら言って。僕も危害を加えちゃったから僕なりの形で責任は取るよ。」


「うん。ありがとう、またね」


「ほーい。弓月ゆづき、あとはよろしくー」


ま、心配ないだろう。一応、コイツ空手で黒帯だから大丈夫でしょう。


「任された。柚和ゆわバイバーイ」


「じゃあねー。お邪魔しました」


そう言って、さんの家を僕は出た。


ポケットから貰った紙とスマホを出して、杏菜あんなさんのメールアドレスをスマホに登録する。ラインにも登録しようか悩んだけどパタンとスマホのカバーを閉じた。


「あ、莉奈 りなに連絡しとかないと」


またまたスマホを開いて、家に電話をかける。プルルルルと家に繋がった音がしてそのまま適当に「クリスマスキャロルの〜」と歌ってたら応答された。


「はい、もしもし。葱佐川きさかわです」


「あ、莉奈りな?今から家に帰るから何か買っていくものとかある?」


「コンビニで麦茶二本とハーゲンダッツをたくさん買ってきて。それと買うものじゃないけど気をつけて帰ってきてね」


「いや、ハーゲンダッツは買うよ。いちごでいいんだっけ?しかもここら辺車とか全然通らへんから大丈夫や」


「ハーゲンダッツはキャラメルバタークッキーとバニラとマカデミアナッツとストロベリーだからね?覚えた?んじゃ、よろしくー」


「おい、ちょっとまっ!」


僕が言い切る前に既にプープープー切られた音がした。


「あんにゃろう。後で締めるか」


そう言いつつ、コンビニに足を向ける僕も甘いんだろうなぁ。ふと、仕舞おうとしたスマホがまた音を鳴らした。


「今度はなんだ?」


のろのろっと画面をタップして通知を確認すると弓月ゆづきからだった。


弓月ゆづい

『起きたら襲いかかってきたよー(泣)後ろ回し蹴りしたらなんかピューって感じで帰っていったよ。取り敢えず弓月ちゃんは杏菜あんなちゃんを家に泊めるね。以上弓月ゆづきからの報告でした』


「…これ、絶対報復しにきた!とか復讐とかやり返しくるやつじゃない?…」


一人、弓月ゆづきからのメールに悩む僕であった。



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