第2話

○山さんのイジメは毎日行われた。


名字の頭文字アルファベットを教科書で見つけるだけで爆笑する男子。

意味が分からない先生。


ヒソヒソ言うのではなく、度胸試しのように男子が頭文字アルファベットを授業中に次々と言う。


意味が分からない先生は黒板からチョークを離し、生徒達の方に振り返る。


「うん?どうした?」と聞くも、

「いえ?何が?」と言い、クスクス笑うだけ。


放課後のホームルームでクラス目標を決める際には○山さんの名前をもじったものになり、学級委員も楽しそうに笑っていた。


「他に良いのないだろ?早く帰りたいし、もうこれでいいよ!」


意味の分からない言葉の羅列なのに、教室の横で作業をしながら様子を見ていた担任は「これにどんな意味があるのか分からないけど、みんなで決めたならコレでいいのね?本当ね?」と言った。


誰も異論は出さなかったので、クラス目標を決めるホームルームはすぐに終わった。


クラス中央、教卓から二番目が○山さん席だった。


○山さんはずっと下を向いていて、みんながケラケラ笑いながら部活に行く準備をしていても立ち上がる事はなかった。


両手をグーにして膝の上に置いていた。

その時が過ぎるのをジッと待っているように見えた。


悪ノリする男子と、もうそれでいいよと言った学級委員に呆れた倫子だったが、やはり何も言えなかった。

ただ、翌日から○山さんが不登校になるんじゃないかと心配した。








しかし○山さんは毎日学校に来た。


その姿を見て男子たちは各々の鬱憤を晴らすかのように、○山さんイジメを加速していった。


まるで不登校にさせようとするかの様に。



数日後にはクラス内だけでなく、学年集会の場でも頭文字アルファベットを叫ぶという度胸試しのような遊びを始めた。


気がつけば事情もよく分からない他クラスの男子も混ざるようになっていた。





○山さんは毎日登校していたが、休み時間になるとクラスを出て保健室に居ることが多くなった。

本人がいなければ、頭文字アルファベットではなく名字で言いたい放題だった。


「○山ウザくね?このまま来なくて良いよ」


そんな発言に「言い過ぎだよぉ」と笑う派手な女子も倫子には同じ仲間にしか見えなかった。




一緒に笑う事もできず、胸に残る不快感とクラスに馴染めない違和感。


そういうの、やめなよ!と言えない勇気のない自分。


担任の先生、保健の先生、気付いて…

○山さんは、なぜ泣かないの…








次のホームルームでクラス内の係を決めることになった。

倫子は音楽委員がやりたかったが、先に立候補した男子が○山さんをイジメる1人だったので、避けた。


倫子は女子同士でできる係に立候補した。

それは悪ノリで決まったクラス目標を大判な模造紙に書き、黒板の上に掲げる係だった。


放課後、同じ部活の女子と一緒に、特に何も話すことなく淡々と作った。

綺麗に…可愛く…などの気持ちになれず、ただ黒のマジックで書いただけの紙を黒板の上に画鋲で留めて部活には出ずに帰った。


○山さんはイジメられている。

それを誰に伝えたら良いのか分からなかった。

イジメてる側はイジメてるとは気づかず、楽しい挨拶かのように頭文字アルファベットを連呼する日が続いた。



一緒に作業していた2人は部活に行ったが、倫子は気分が悪くなり帰った。




その晩、倫子は高熱を出した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

心の移り変わり〜思春期から理解されない私の生き様〜 @IZUMI201

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ