第81話 小夜鳴鳥は囀らない 序章

 しばらくの間、場を無言が支配する。

 あたしは正直、ガチで返事に困っていた。

 すごいチートアイテムなのはわかるんだけど、もらってこれほど困るものもない気がするし……。

 そんな沈黙を破ったのは徳之進さんだった。


「どうした? 選ぶ自由をやるのだぞ?」


 そういう問題じゃないです。……って、あたし、さっきからこればかり言ってる気がするー!!

 だって、だって、まずなにに使っていいかわかんないもん! 江戸城年パスとか!


「気が向いたらいつでも来るが良い。もちろん、この籠に留まれと無理強いはせぬ。籠の扉はいつでも開けておくぞ」


 いや、だから、そういう問題じゃ……。


「……それにな、休まぬ小鳥も困りものだが、それは鳴かぬ鳥ほどではない。そちには……」


 はじめて、徳之進さんが口ごもった。

 それから、ゆっくりと何回かまばたきして、真剣な目であたしを見据える。


「山吹、これまでのやり取りからそちを見込んで頼む。鳴かぬ鳥に歌を思い出させてほしい。私の妹の小夜を……歌をなくした小夜を……そちに頼みたい」




<注>

小夜鳴鳥さよなきどり:ナイチンゲールの別名を持つ美しい歌声の鳥。アンデルセンの童話「小夜啼鳥」ではそのモチーフが日本から贈られていますが、実際には日本土着の生物ではありません

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