第34話 山吹御前試合の巻 四~かまくらと肉と金槌とあと俵

「山吹どん、早速お殿様から俵で贈り物が届きんした!」


 お殿様、手早いなあ。

 ……て、俵かよ?!


 俵にぎっしり詰まったトンファーとか、使わない分どうするの……。


 確かにいろいろな種類のトンファーが欲しいとは伝えたけど、大八車だいはちぐるまに載せられてくるレベルの俵が届くのは予想外すぎた。


 お殿様が太客ふときゃくなのはありがたいんだけど物事には限度ってものが、と、キャバ嬢時代、ファーストクラスで行くヨーロッパ周遊旅行二週間をプレゼントされそうになったあたしは溜息をつく。

 冷静に考えて、店、そんなに休めるわけないじゃん……。


 それに今は目の前の塩釜焼きの方が大事件なんです。


「それはお内儀さんにおがみんして男衆おとこしに邪魔にならぬところへ運ばせてくんなんし。あとで確かめささんす」

「あい!」


 桜が、さささと内所へ向かう。

 梅はお皿に乗った白くてところどころ薄茶に焦げた塊にじっとその視線をそそいでいる。


「山吹どん、このかまくらのようなものはなんでありんすか」

「塩釜でござんす。ももんじを塩で包んで焼きんした。開くときがいっち楽しゅうござんすからな。桜の戻りを待ちんすえ」

「ではこの金槌は……」

「それも桜が戻って来んしてからの楽しみでささんす」

「あい……あ、桜姉さん」

「お内儀さんも俵には困っておりんしたがなんとか蔵へ納めんすと。

 わあ、雪の山のようでござんすなあ!」

「でござんしょう?この中にももんじが入っておりんすよ。さ、桜も戻りんしたし、御開帳と参りんしょうか」


 あたしは金槌を手に取る。

 その両脇からは目をぱちぱちさせてる桜と梅。


「行きんすえ!」


 ごん、と思い切り金槌を叩きつけると、塩釜は気持ちよくぱかんと割れて、中からほこっと焼けたお肉が飛び出してきた。


「あれ、手妻」

「ほんに」

「うまくいきんした!これをこう切りんしてな……ああ……おいし……」


 口の中に広がる肉汁、和風だけど香辛料の香り、俺、肉だから!と自己主張してるようなジビエの味……何もかも懐かしいよぉ!おいしいよぉ!

 ああ、塩釜ローストイノシシ……!アリ寄りの超アリ……!


「桜と梅も、さ」


 桜と梅が微妙に目を泳がせる。

 断りたいけど断りづらい後輩の表情だ。


「無理にとは言やんせん。ただまあひとくち、お味見だけでもいかがでござんしょう。お薄に切りんすから、二人はここなポン酢をさっとつけて、卵味噌を載せて」

「あ、あい……」


 まずは桜がおずおずと薄く切った肉へと箸を伸ばし、あたしの言うとおり、別皿に用意しておいたポン酢をつけて、卵味噌もちょんちょんとつけて、意を決したように口に運ぶ。


 そしてしばらくの間のあと。


「……おいしゅうござんす!ささ、梅も、梅も!」


 すごい勢いでプレゼンしてくる桜に押され、梅も桜と同じやり方でお肉を口に入れる。


「あ、ほんに」


 でしょー!


 この味付けは京都の超有名猪鍋店の味付けを参考にしてるんだもんね!

 そこは白味噌ベースのタレでイノシシ肉を似てからポン酢につけることでおいしく食べさせてくれるから、焼いたのをポン酢にくぐらせてお味噌をつけてもいけると思ったん!

 で、白味噌を卵味噌にしてもっと濃厚にすればさらに肉のクセも気にならなくなるだろうし、白身しか使わない塩釜のせいで余っちゃった黄身も有効活用できるし!


「も、もう一切れいただいてもようござんすか」

「一切れと言わずなん切れでも食べなんし。ああ、お内儀さんと桔梗どんにも持って行きんしょうか」

「それならばわっちが行きんす。……あ、その前にわっちにももう一切れ……」

「二人とも、いくらでも食べなんしな。ももんじはこたあたくさんありんす。わっちがどんどん切りんすえ」


「「ありがとうござりんす!」」


この日、巳千歳には第三の名物、「山吹焼き」が生まれました。






<注>

俵:当時は段ボール箱などはないため、大量の荷物は俵にして送ることが多かったです。

大八車だいはちぐるま:巨大な荷車。1人では引けないので2人から3人で引きます。大きな俵をいくつも積むことができ、江戸時代に運搬用としてよく使われました。

太客ふときゃく:現代水商売用語。キャバクラからホスクラまで幅広く使われます。指名して自分にじゃぶじゃぶお金を使い通い詰めてくれるお客様。太いお客様の略です。

いっち:江戸言葉で「一番」

ももんじ:江戸言葉で肉全般を指します。

ジビエ:野生の獣の肉のこと。養殖でも牛、豚、鶏肉以外はジビエと呼ぶ場合があります。

超有名猪鍋店:実在します。おいしいです。

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