第29話 宴のあとの闇~幕間~

 あー……。


 あたしはなんだかすっきりしない気分で座敷に座っていた


 確かにあたしは桔梗にキャンと言わせたかった。


 でも、桔梗が実際に痛い目にあうのなんか望んでない。


 あたし、まだまだこの世界では甘いなあ……。

 うまくやったつもりなのに全然違う方向にピタゴラスイッチしちゃった……。


 お殿様がくれた金の火掻き棒に指を這わす。


 冷たい。


 いまごろ桔梗もこんな冷たさを味わってるんだろうか。


 もっとうまくやれる方法はなかったのかな。

 誰も傷つかないですむような……。


 わかんないよ。

 あたしは桔梗にごめんって思って欲しかった。でも、それ以上のことなんか望んでなかったのに。


 あたし、甘かった。

 歴女とか言いながら、ほんとの江戸時代のことなんかわかってなかった。


「山吹どん、入ってもようござりんすか……?」


 控えめな桜の声。


「ようござんす」


 そう答えながらあたしは座り直し背筋を伸ばす。

 何があってもあたしはこの子たちの姉女郎。

 弱い姿なんか見せちゃいけないんだ。


此度こたびはわっちらのためにご尽力ありがとうござりんした」


 桜と梅が山吹髷のまま三つ指を突く。


 それすらなんだか胸が痛くてあたしは何も言えなかった。


 桜と梅は可愛い。それは本当だ。

 でも、桔梗が憎いかと言われれば……嫌いだけど、リンチに遭うのを喜べるほどじゃない。


 あたしは痛みを知ってるから。

 ヤンキー時代につけたケジメ。

 折られた骨や切り裂かれた腱。その痛み。

 でも、助けの来ない絶望。


「……頭を上げなんし。桔梗どんはやり手に仕置きをされんしたときにもう罪咎は払っておりんす。戻られたらこれまでと同じように桔梗花魁として行き会うようにな。わっちの言いつけでささんすよ」

「あい」


 桜が顔を上げると梅も一緒に体を起こす。


「どうして山吹どんはこたあ優しゅうおりんすか?」


 桜に聞かれ、あたしは式部さんがくれた簪をちゃりちゃり鳴らしながら答える。


「優しゅうせねば優しゅうしてはもらえんすからなあ。桜、梅、よう覚えておくんなんし。人にしたことはいつか自分に帰って来なんすよ」

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