第23話 山吹大芝居~幕間~

「これが筆屋伊兵衛さまが仕立てんした仕掛でおりんすか。ほんに綺麗……」

「伊兵衛さまが天女の羽衣と言いささんすのもまこと。白絹に金糸が映えて……今にも羽が生えそうでござんす」


 あの大騒ぎから一夜明けて。


 桜と梅は約束通り伊兵衛さまが仕立ててくれた仕掛を前にうっとりしてる。


 うん。確かにすっごく綺麗。


 でも問題は、昨日の騒ぎをあれから登楼した伊兵衛さまに知られて、しかも気に入られちゃったことなんだよね……。






                   ※※※






 叱られた犬みたいになってたお殿様と片足を引きずったお武家様とそのお連れたちが帰って間もなく、前々からの話の通り、筆屋伊兵衛さまがあたしに会いに巳千歳に現れた。


 もちろん伊兵衛さまは馴染だからすぐにあたしの座敷に通す。


 網を打ったあたしの前に伊兵衛さまはにこにこと満足げな顔で大きな包みを運ばせてきた。


「山吹、約束の仕掛ができた。開けてみなさい」


 運ばれてきた包みの糸を開くと、そこには真っ白な絹の一面に山吹の図柄が金糸で厚く刺繍してある見事な仕掛が収められていた。


「まあ、ほんに麗しゅうおりんす……」


 綺麗だけどそれだけじゃない。

 これを仕立てるのにはずいぶん値も張っただろう。

 刺繍は分厚く施されている方が手間も技術もいるから高価なんだ。

 しかもこの時代では手縫いしかないからよけいに。


「であろう、であろう。儂の可愛い山吹が着るものだからな。山吹の麗しさにに負けぬ仕掛でなくては。これでもう心に地獄花なぞ咲かぬだろう?」

「あい。まっことお気持ちわかりんした。もう勝手は申しんせんえ」

「しかし、鉄火山吹にはまた違う仕掛が要いりそうだな。黒地に赤の紋散らしなぞ、炎のようでよいな。火掻き棒のかんざしも作るか」


 え?!

 マ?!

 もう話廻ってるの?!

 やばいやばいやばい。伊兵衛さまは上客なのにドン引きされたらどうしよう。


「もう少し早く着けば山吹の大立ち回りを見られたというのに惜しいことをしたわ」


 ええええ?なにそのリアクション。

 見たかったの、アレ。


「大立ち回りなぞ……」

「良いではないか。世に名を残す花魁はみな二つ名を持つもの……紺屋高尾、丹前勝山、ならば鉄火山吹がいてもおかしくはない。しかし、この細い手が武家を倒して啖呵を切るとはな」


 伊兵衛さまの手があたしの腕を取りしげしげと見回す。


「あれ、恥ずかしゅうござんす」

「儂とおまえの仲で今更何を。儂は嬉しくてたまらんわ。今日明日にもおまえの話は出回るだろうが、その鉄火山吹と儂はふるい馴染だと言えるのがな。

 だが山吹、やっとうなぞどこで覚えた?」

「わっちらは何事にも通じておりんすのがあきないゆえ……」

「それでやっとうもか!見上げた根性よ!あれを身請けさえしていなければなあ……。のう、山吹、せめて儂の前でもその立ち回りをしておくれ」

「あ、あい……」






                  ※※※





 ドン引きされずに喜ばれたのはいいけど。


 恥ずかしかった。


 うん。正直に恥ずかしかったです。


 なんで誰もいない空間に向かって火掻き棒振り回して、「鉄火の山吹、お舐めでないよッ……でありんすっ」なんて言わなアカンの……なんの拷問なの……。

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