第2話 たぶんここは江戸時代中期から後期。そして推しはもういない

「桜、梅、わっちは一人で考えたいことがありんす。呼ぶまで琴の稽古でもささんせ」


 とりあえずあたしはなんとかありんす言葉で2人に話しかける。


 歴女やっててよかった……!


 ヤンキー時代、『総長がまた漢字ばっかの本読んでる』って副長によくからかわれたけど『好き』を貫いて本当によかった……!!!


 ああ……推し様……今ならあたしも推し様の横に座れるかも……!


 あ、それは置いといて。


 自分の部屋なのに持ち物の場所なんかがわからなくちゃ怪しすぎる。


 とりあえず、この桜ちゃん、梅ちゃんに部屋から出て行ってもらって状況を把握しよう。


 それにしても、人気花魁につくだけあって桜ちゃんも梅ちゃんもふっつり禿かむろにした髪型に豪華な着物が人形のように可愛らしい。


 ただ、名前の通り、桜ちゃんの方が華やかで梅ちゃんの方がしっとりした可愛らしさだった。気も桜ちゃんの方が強そうだけど、芯が強いのは梅ちゃんだな。伊達にキャバでナンバーワン張ってないからこういうのは自信がある。


「けれど姉さんは倒れたばかりでござんす。わっちらがしばらく傍に……」

「桜、わっちの申したことが聞こえんしたか。梅はどうかえ」

「あい、聞こえんした。桜姉さん、おいらたちは山吹どんの言うとおりにいたしんしょう」

「梅、山吹どんのお世話もおいらたちの務め……」

「その山吹どんがこう言いささんすなら……姉さんの言うことは白でも黒にするのが妹女郎でありんせんか」

「梅の強情者」

「桜姉さんの不忠義者」


「桜!」


 いやいやする桜にぴしゃりとした言葉をかける。


 ごめんね!でもこの時代でこのシュチュだとこうしないと不自然だよね?


「……御粗相ごそそう申し訳ないことでありんした。山吹どんの申しつけ通りわっちらは琴の稽古をいたしんす。梅、わかりんしたからもうつねりんすな!」

「ではわっちらは下がりんす。なんぞあればすぐお呼びくんなんし」


 すすす、と衣擦れの音を立てて桜と梅が部屋を出ていく。


 どこに行ったのかが全然わからないのが怖いけど……まあおいおい慣れてくしかない。


 琴の稽古をさせたのは、あたしが部屋の中でごそごそしたり慣れない着物につまづいて転んで物音を立てても気づかれないためだし。


 さてまずは文机の上にある書きかけの手紙……草書体キター!


 でもこんなの怖くないもんね!


 推したちの遺した手紙を読むために奥の細道から草書体の読み方の勉強を始めて……芭蕉って隠密だったって説もあるんだよね……あ、これもしこの時代で証拠見つけられたらすごいことじゃね?ね?


 いやまあ落ち着こう。ここはあたしにとっては萌えグッズで埋め尽くされたような部屋だけど、萌えるのは後にして。


 文机ふづくえの上に会ったのは普通の懸想文けそうぶみ(ラブレター)だった。平たく言えば営業メール。


 ただこれであたしが『花魁』だということがわかった。


 そして、花魁に禿を二人つけるようじゃ、この時代にはたぶんもう太夫はいない。


「そうすると徳川中期から後期か……」


 えー!じゃあ、一番の推し、いないよおおおお!!!!!


 もう死んでるよおおおお!!!!


 真田信之さまああああああ!!!!!


 あたしは心の中で絶叫しながら、こんなところまでついてくる自分の運の悪さを呪った。




<注>

真田信之:西軍(豊臣家)と東軍(徳川家)が争った関ヶ原の戦いで、西軍と東軍に別れた真田家を存続させた賢君。徳川家にも頼りにされ、領地ではよい統治をし、領民にも愛された名君。関ヶ原の戦いのあと、信幸から信之に改名しています。筆者はあえて名を捨て家を残した決意と取り、信之を採用しました。

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