ナンバーワンキャバ嬢、江戸時代の花魁と体が入れ替わったので、江戸でもナンバーワンを目指してみる~歴女で元ヤンは無敵です~

七沢ゆきの

第1話 もしかして:吉原

「山吹どん、山吹どん、何がありんした。姉さんに何かありゃあ、わっちらもただじゃあすみんせん」


 え……え……なに……?


しゃくでも来ぃなんしたか?あれ、梅、気付け薬をはよぅ、はよぅ……!」


 大声に驚いて目を開けたら目の前に日本人形が二体いました。


 ちょっと待ってなにこれ。うちのキャバクラの和服イベントは先月終わったはずだけど?!


「ああよぅござんした。山吹どん、馴染へのふみを書きんすと思えばいきなりぱたりと倒れなんして……のぅ、梅」

「あい、桜姉さん。わっちら、山吹どんのお引き立てがのぅござんせば、この身どうなるともわかりんせんからなぁ」


 え、もしかして日本人形が喋ってるのはマジモンのありんす言葉?!


 これ店のイベントじゃないの?!


 日本人形二人が畳の上に寝てたあたしの体をうんしょと声をかけて起こす。


 ……体、重てぇー!!!頭も重てぇー!!!


 しかもあたしまで日本人形になってるー!!!


「山吹どん、倒れておぐしが乱れんした。ちぃと失礼いたしんす」

「梅は器用で羨ましんす」

「おいらは桜ほどの器量がありんせんから……技で身を立てる女郎になりんすえ」


 日本人形の小さな手がぺたぺたぐいぐい髪をいじくる。


 それをにこにこ笑いながら見てるもう一体の日本人形。


 それより!それより!誰かあたしにこの状況を説明してー!!!




                     ※※※




 あたしは琴屋ことや杏奈あんな


 職業は和風キャバクラ『大奥』のナンバーワンの山吹。


 山吹なんてだっせー名前だと思うけどここの店の源氏名はみんな古典花の名前だからしゃーない。


 あたしのオヤジは下っ端ヤクザでチンケな抗争で死んで、母さんもあたしを大学に行かせるために働きすぎて死んで……だからあたしは母さんのためにも勉強しまくったよ。いい大学に入って主席で卒業。オヤジの血のせいで高校まではヤンキーの番を張りながらね。


 でも……いくら学歴で箔をつけても、オヤジも母親も保証人もいない、その上オヤジが抗争で死んだヤクザの娘なんか、母さんが望んでたまともで大きな会社じゃ相手にしてもらえなかった。


 母さんが命を懸けてまであたしにやってくれたことは無駄だったんだ。


 あたしは泣いて、それから決めた。


 キャバ嬢になって、金と人脈貯め込んで、史学の勉強できる大学院に行き直して、なりたかった推したちの研究者になってやる。


 日本の史学極めてやる!元ヤン歴女舐めんなよ!ってね。


 でもマジで江戸時代に来れちゃうなんて……!


 あああああ!!!推しのあの方と同じ時代とかアリよりのアリでお願いします!


 ってその前に。


 今のあたしの状況を把握しないと。


 ありんす言葉を話してるならここは江戸の吉原。


 目の前にいる日本人形二人はたぶん遊女見習いの禿かむろだ。


 それで、禿を二人つけられてるあたしは……あたしが習ったことが間違ってなきゃ超人気の花魁か太夫!!!


 え?マ?すげくね?!すげくね?!歌舞伎町ナンバーワンよりすげいし!


 と、これから来る苦難も知らずにあたしは訳の分からないテンションになっていた。




<注>

禿かむろ:7~13歳程度の子供。花魁の身の回りの世話をする代わりに花魁からは吉原のことや芸事げいごとを教わる、金銭的に面倒を見てもらうなどしていました。禿が少女になると振袖新造になります。本来は振袖新造も姉女郎になる花魁につくのですが、話の都合上本作では振袖新造はついておりません。

しゃく:急にお腹が激しく痛むこと。江戸時代によく使われた言葉です。

マ:マジの略です。ギャル言葉です。

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