第11話 出会い 『ボランティア部3』

「召喚っ」


 ぽんっという音と共に、いづみちゃんも使い魔を出していた。

 ドコツカは、カラフルな花柄だった。


「えへへ。わたしのも、あんまり役に立たないかもだけど。現象ガイストタイプ、ケセランパセランのマイモです」


 いづみちゃんの頭の上で、ふわふわと浮かぶものがあった。

 白くて丸くて、綿あめみたいなやつだった。ソフトボールくらいの大きさで、目や口は無かった。


「よろしく。マイモ」


 マイモは僕の目の前に来ると、ゆっくりと様々な色に光った。


「え! なに?」

「あはは。テレパシーもできるんだけど、マイモは感情を発光して表現するの。これはいろんな色を見せてるから、よろしくってことだよ」


 なるほど。と思いながら、ふと思いついてマイモを手で包んでみた。

 すると、マイモはするすると指の間から抜けてしまい、からかうように黄色く光った。


「ふう~、いづみ~」


 疲れた顔のアキラちゃんが、背後からいづみちゃんに抱きついた。


「アキラちゃん、おつかれ」

「大変だったね」

「そう思うなら助けてよー。あー、うるさかった!」


 伸びをするアキラちゃんの傍には、ヨイチの姿がなかった。


「あれ? ヨイチは?」

「ここにいるでござるよ」


 耳元であの渋い声がした。


「うわあ!」


 いつの間にか、横にヨイチの顔が浮かんでいた。


「実体化してると邪魔だからね。砂状化させてあるのさ」


 顔だけのヨイチの周りには、黒い砂が集まっていた。


「そういえば、初めて見たときもなってたね。すごいなぁ」

「これは個性じゃなくて砂の国によくある特性らしいから、ひた隠しにすることもないしね。でも、この前はこいつがベラベラ喋ったから、二日間断食させて釘刺しといたんだ」


 アキラちゃんはメロンソーダを飲み干して言った。


「はい……二日ぶりに食した米は、甘かったでござるなぁ……」


 砂の中のヨイチは、辛かった日々を思い出すように遠い目をしていた。


「ところで、晴人くんの使い魔は?」

「あぁ、僕のはこれなんだ。アメ!」


 僕は手のひらを上にして、相棒の名前を呼んだ。

 すると、数個の光の粒がゆっくりと浮き上がった。


「うわぁ、きれいだね~」

「いづみと同じ現象タイプだったよね?」

「う、うん」


 胸の奥がチクリと痛んだ。


 ヨイチの暴走とはいえ、アキラちゃんは個性のほとんどを僕に知られてしまっている。もちろん、助けられたあとにお礼として固定の能力などは見せたのだが、それでも一番大きな秘密は隠したままだった。


「フォークス・アターック!」

「ぐへっ!」


 積もり始めた罪悪感を感じていると、ドッジボールのように投げられたフォークスが僕の頭に直撃した。

 その様子を見て、ムギさんと信二が大声で笑った。


「なにすんですか!」

「はっはっは! これが飛ばない不死鳥、フォークスの必殺技なのだよ」

「……こいつの脂肪で威力半減してますよ」


 当たった感触としては、ゴムボールのようでほとんど痛くはなかった。

 派手にぶつかったというのに、フォークスは変わらずふてぶてしい顔のまま床の上に転がっていた。


「やあ、ヨイチ!」

「キュー!」

「これはこれは、小太郎殿、アリエッタ嬢。元気そうでなによりでござる」


 尻尾を振りながら、小太郎が元気に吠えた。


 背中にはアリエッタが乗っていて、二匹の様子はものすごくかわいかった。漂っていたマイモがふわりと近づき、色とりどりに光った。


「あれ? 衛は?」

「トイレ行ってる」

「わー! かわいい!」

「アリエッタはね。こいつはちょっとクセがあるんだ噛むな!」


 足首に噛みつこうとした小太郎を、信二がギリギリのとこでかわした。


「大丈夫。小太郎くんもかわいいよ」


 いづみちゃんが頭を撫でると、小太郎は剝いた牙を一瞬で引っ込め、尻尾をぶんぶん振りながらすり寄った。


「犬のくせに猫被るなよ」

「シンジうるさい」

「あはは。小太郎くんは、信二くんの使い魔なんだよね? アリエッタちゃんは?」

「俺のだ」


 後ろから野太い声がした。

 戻ってきた衛だ。


「あ、あの、撫でてもいい?」


 いづみちゃんが恐る恐る聞いた。

 さっきノリの良さを披露したとはいえ、衛が纏う雰囲気はやはり怖いものがあった。いづみちゃんの気持ちはわかる。


「あぁ。でも……」


 衛は恥ずかしそうに目を逸らすと、おもむろにマイモを指さした。


「俺にもあいつ、さわらせてくれ。ふわふわして、気持ちよさそうだ」


 恐ろしい雰囲気は一瞬で吹っ飛んだ。


「……なんかさ」


 アキラちゃんが呟いた。


「うん?」

「衛くんって、かわいいとこあるよね」

「「「全然似合わないけどな」」」


 僕、信二、ムギさんがハモった。


「ぶふっ!」


 それがいづみちゃんのツボに入ってしまったらしく、しばらく笑いっぱなしだった。

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