第10話 出会い 『ボランティア部2』

 新歓コンパは楽しく過ぎていった。

 

 いづみちゃんと仲良くなれたし、途中で席替えをしたから他の新入生や先輩たちとも話すことができた。

 緊張したけど、僕の鉄板ネタ『高校のとき図書委員の女の子が、当時の不良グループを使い魔のゴーレムでぶっ飛ばした話』をして、なんとか場を盛り上げることができた。


「ね、ねぇ、晴人くん」


 いづみちゃんが細い声で僕を呼んだ。

 となりでは、衛が腕相撲で連勝している最中だった。


「なに? いづみちゃん」

「アキラちゃん、大丈夫かな?」


 心配そうな視線の先には、数人の男に囲まれたアキラちゃんの姿があった。


 きっと、最初から目を付けていたのだろう。

 いつの間にか、他の女子や僕たちが入り込めないほどに囲まれていた。

 

 しかし、当のアキラちゃんはつまらなそうに相づちを打ちながら料理を食べていた。うんざりしたような倦怠感があからさまに漂っているのに、周りの男たちは気づいていないようだ。


「……ってオレが言ったわけ! 笑えるっしょ? ね?」


 中でも目立っているのは、アキラちゃんの右に陣取った金髪の新入生だった。


「オレさ、女の子とかマジ大事にするし? 元カノだって、みんな納得して別れたんだよ。あ、オレ今まで三十人と付き合ったことがあるから。マジで小学校のときからモテるんだよね~。彼女いないときがないのよ。だからさ、今のオレちょーレアなわけ。もうちょっとしたら、すぐ彼女できると思うんだよね~。今すっごいチャンスだと思うんだけどな~」

「……ウザいな」


 つい、声に出てしまった。聞こえてくるだけでも、相当イライラしてくる。


「どうしたの? ……ありゃー、アキラちゃん大変だわ」


 ひょっこり顔を出した信二も、苦笑いを浮かべた。


「どうする? そこのアームレスラーでも投入する?」


 信二が、紺チェックをまくり上げた衛を指さして言った。


「いいかもね」


 ナイスアイディアだと思った。


「はい! みんな注目!」


 アームレスラーの肩を叩こうとしたとき、室内にムギさんの元気な声が響いた。


「これから使い魔紹介をしようと思います! じゃあそうだな……アキラちゃん、こっち来て!」


 呼ばれたアキラちゃんは勢いよく立ち上がると、金髪を軽く押しのけてムギさんのとなりに並んだ。

 囲んでいた男たち、とりわけ金髪はムギさんを睨みながら舌打ちをしていた。


「……あれ、わざとかな?」

「だとしたら、けっこういい人だよな」


 僕の中でボランティア部、もといムギさんへの評価が高まった。


「ではでは、アキラちゃん。差支えなければ、使い魔を紹介してくれないかな?」

「いいですよ……ちょっと恥ずかしいけど」


 アキラちゃんは、黒地に小さな星がちりばめられたドコツカを取り出すと、目の前にかざして「召喚!」と唱えた。


「おお!」


 周りから歓声に近いどよめきが起こった。


 そりゃあ、そうだろう。日本人なら、初めてヨイチの姿を見れば驚きもする。

 エジプトでは普通かもしれないが、日本では滅多にいない種族なのだ。僕だって体が痺れていなければ、それなりのリアクションをしていた。


「うおっ、かっこいいね!」

獣人じゅうじんタイプ。アヌビス系眷属のヨイチです」

「拙者、ヨイチと申す! この通り、お嬢は見た目はいいのに愛想が悪く友人が少ない故、皆さんにはぜひとも仲良くしていただき痛い!」

「余計なことは言わなくていい!」


 鋭い右ストレートが、ヨイチの横っ面を捉えた。


 ヨイチは吹っ飛び、アキラちゃんは恥ずかしそうに表情を歪ませていたが、おかげで会場は笑いに包まれた。きっと、ヨイチなりに気を遣ったのだろう……本当に痛そうだが。


「いやぁ、いい使い魔をお持ちで。さぁ! それではいよいよ、俺の使い魔の登場だ!」


 言うやいなや、先輩たちからは拍手と共に「出た!」「いえーい!」など、盛り上げる声が続いた。鉄板なのだろうか。


「なにを隠そう、俺の使い魔は伝説レジェンドタイプ! かの有名なフェニックスだ!」


 これには僕を含め、新入生全員が驚いた。


 伝説タイプというだけでも珍しいのに、欧米では古くから勇者の証と言われてきた有名な使い魔だ。日本での呼び名は不死鳥。その名の通り、死ぬことのない伝説の鳥だ。


「いでよ、相棒! 召喚!」


 真っ赤なドコツカから光が放たれ、その先に新入生の熱い視線が注がれた。


 が、不死鳥はどこにもいなかった。


 いや、訂正。僕たちが想像していた不死鳥はどこにもいなかった。


 燃え盛るような羽に、凛々しい姿。すべてを見通すような瞳に、神々しいまでのオーラ。

 それが僕の、僕らのイメージしていた不死鳥だ。でも、目の前に現れた使い魔は違った。


 テーブルの上に、でんっと乗った丸い鏡餅のような物体。


 赤みがかったオレンジ色で、寝起きなのか機嫌が悪いのか、ふてぶてしい目つきをしていた。


「えっ……これ?」


 思わず口に出てしまった。


「その通り! 不死鳥のフォークスだ!」

「えー!」


 僕らの驚きと、先輩たちの笑い声が重なった。

 やっぱり、鉄板ネタだったんだ。


「いやいや、ウソでしょ。こんなのが不死鳥なんて、先輩ホラ吹き過ぎっすよ」


 先ほどの腹いせなのか、金髪が突っかかった。


「ん? 正真正銘、本物だぜ? 昔、家が火事になったんだけど、こいつこの調子で全然動かなくてさ。俺もムカついてそのまま置いて逃げたら、全焼した家でケロッとしてやがんの。何事もなかったみたいにさ。全然役に立たないけど、不死鳥の特性はちゃんと持ってるぜ。あ、個性はヒ・ミ・ツ」


 ムギさんは金髪の悪態を意に介さず、笑って答えた。

 目論みが外れて、周囲からの冷ややかな視線を受けた金髪は、不機嫌に顔を背けた。


「さあ! みんなも、使い魔を紹介してさらに仲を深めよう。あ、ゴーレムとかデカいやつは召喚控えてね。お店に迷惑かかりそうなのも」


 いたるところで召喚が行われ、様々な使い魔が現れた。

 おかげで、座敷のにぎやかさは倍以上になった。

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