伝輪流

朝野花子

第1話 無我夢中

公園で酒を呑んでいる人達がいた。

彼らは大きな声で話していた。

人数は4人、年齢は40〜50代位であった。

少し騒がしく、子どもたちの遊ぶ場所には不釣り合いではあったが、まあ楽しそうに話している分には良いだろう。

そう考えた私は、もうそれ以上は気にぜずにいようと考えた。

そして彼らがベンチ代わりに座る噴水の横を通り過ぎ様としたその時、1人の男がこう言った。

若い頃は何でも出来ていいが、そんな青春時代が終わった今じゃ‥‥。

それに合わせて他の者も口を揃え、昔はパワーが有って何でも出来た。今はあれやこれと考える事が多過ぎて、やりたい事が何も出来ない。

そう言うと手に持つパックの鬼殺しを口元に運びストローをくわえ、チューっと呑んだ。


ほほぉー。

彼らにとって仲間と楽しく酒を呑むのは、やりたい事ではないのかぁ。

それにしては随分と楽しそうにしているな。

そう思いながら私は彼らの前を通り過ぎ、公園の奥にある池へと向かった。


ここはあまり人の来ない私のお気に入りの場所である。春には鶯が、まるで私に向けて鳴いているかと感じるくらい良い声を聞かせてくれる。季節ごとに咲く花々、色づく木々。

子どもたちは、そんなものにはあまり興味を示さずこの辺りに来るのは、隠れん坊の時くらいである。しかし私の様な年寄りには、ここはまさに楽園であった。

私は枯木にショルダーバッグを引っ掛け、中から1冊の本を出し腰を下ろした。

本のタイトルは「無我夢中」

これは私が40歳の時に書いた本である。丁度、先程の彼ら位の年齢の時である。

最後に読んだのがいつだか記憶に無く、タイムカプセルを開ける様な気分であった。

当時を思い起こしながらゆっくりと本を開くと、この様な書き出しから始った。


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伝輪流 朝野花子 @hanakoasano

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