20

ニヤッと笑いながらベッドから下りた彼を、涼子は困り顔で見る。


「学校ではオイタしないようにね」


「それはセンセとも約束しているから大丈夫♪ さて、明日からテストだし、最後に声でもかけに行こうかな」


そう言って意気揚々と扉に手をかけた彼だけど、不意に真面目な顔で振り返った。


「あっ、オレ、言っておくことがあったんだ」


「何?」


「美咲のこと、アンタにも譲らないから」


低い声で出された言葉は、アタシならば腰を抜かすほどの迫力を持っていた。


だけど涼子は平然として、手を振る。


「なら奪われないように、あのコを困らせるのはやめなさい。あのコが苦しんでいるようなら、遠慮なく、奪ってみせるから」


「やれるもんならやってみなよ? いつでも受けてたつからね」


「はいはい」


テスト前と言うことで、部活もなく、放課後の校舎の中は怖いぐらい静かだ。


きっと図書室なら、人は多いんだろうケド。


誰もいない廊下を歩いていると、後ろから声をかけられた。


「美咲センセっ!」


「かづっ…じゃない! 世納くん、まだ残っていたの?」


思わず名前で呼んでしまい、慌てて言い直す。


彼は間近に来て、止まった。


「今なら誰もいないから、名前で呼んだって大丈夫じゃない?」


「…そうもいかないでしょ? どうしたの?」


声を潜めて尋ねると、彼は笑顔で首を傾げた。


「最後の充電しに♪」


そう言うなりいきなり抱き締められた!


「ちょっちょっと! ここは学校の中だってば!」


「今は人いないから大丈夫だって。それにこれでしばらくは美咲に触れられないんだから、ちょっとの間だけ、ね?」


「うっ…」


そう言われると、動けなくなる…。


「あ~あ。しばらく美咲禁止かぁ。悲しくて、オレ、泣きそう」


「家の中で、1人で好きなだけ泣いてちょうだい。そして大人になって」


「言うようになったね。でも電話やメールぐらいは良いでしょ?」


「まあそのぐらいなら…」


「ヤッタ♪ テスト、頑張るからね。特に英語」


「はいはい。他の教科も頑張って」


「うん! それじゃあ、キスしてよ」


「…んもう」


背伸びをして、彼の唇にキスをした。学校の中なので、軽いキス。


「ふふっ。大好きだよ、美咲。オレだけの美咲」


うっとりした表情と声が、体に染み込む。


彼の首筋に顔を埋めながら、アタシは口を開いた。


―好きよ。華月―


声には出さず、唇だけ動かした。


だってここはアタシの職場だから。


2人の秘め事は、学校以外の2人っきりの時だけ、ね?



<終わり>



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教え子の甘い誘惑 hosimure @hosimure

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