第5話 菜々と体力測定(前半)
「ああああああ休日は家でのんびりするに限るなぁ…」
井藤敬。つい最近ジャパリパークにやってきた新人飼育員。
ただし初日遅刻という汚名は拭えない。
新人とは言っても飼育員として働き始めて約1ヶ月が経過し、すっかり職場にも慣れ、仲の良い同僚やフレンズたちも増えてきた。順調な滑り出しと言えよう。
そんな敬は貴重な休日を満喫中である。
…家でゴロゴロしているだけだが果たして満喫と言えるだろうか?
ともあれ、久しぶりに昼間まで家でのんびり出来ていると言えよう。
と、机に置かれていたパーク飼育員同士の業務用の携帯がブーーーンと鈍い音を立て細かく震える。どうやらなんらかの着信らしい。ただし今日の敬は休日だ。あまり良い気分はしない。
「……休日になんだ?」
渋々携帯を開く。送り主はミライ……。
「ミライさんから?こりゃまたどうして」
というかミライは飼育員じゃなくてパークガイドじゃないか、と思いながら件名を読む。
『フレンズさんの体力測定実施について』
…………………
定期券片手に駅の改札を通過する。
メールには要約すると「急で悪いけど体力測定について説明したいことがあるから今から本部まで来てくれないか」的なことが書いてあった。いや具体的になにを教えるとかメールで教えてくれてもいいんだが。
ジャパリパークの本部はパークセントラルにある。敬はセントラルからそこそこ離れたところにある都市エリアの一角に建っている職員向けの集合住宅で家族と暮らしている。電車も走っていて、仕事のある日はもっぱら電車通勤だ。敬の家なら乗り換えなしでセントラルに行ける。
因みに、飼育員と一緒ならフレンズも電車など交通機関に乗せてもいいという規定がある。
車内で何か発生した場合に責任の所在をハッキリさせることが目的だが、電車の場合、高圧電線やらなんやらで危険が多いから、とのこと。
今の敬にはなんら関係のない話である。
ホームに上がると程なくしてセントラル方面行きの電車が滑り込んできた。
いつも乗っている電車は朝の本部へ向かう職員で混雑する電車なので、昼間のそこまで混んでない電車は久しぶりだ。乗客はだいたい本土からのお客様だろう。
ドアが閉まり、セントラルへ向けて走り出す。
…………………
本部に着いたのでとりあえず顔を出すことにした。
「あれ、お前さん今日は休みじゃなかったけ」
真っ先に声を掛けてきたのは同僚の戌田。比較的早い段階から敬と絡みのある気の置けない同僚だ。
「いやーなんかミライさんに呼び出されちゃって。なんでも体力測定…?とのことで」
「あー…もうそんな時期かぁ。そういやお前さんは体力測定に立ち会うのは初めてか、多分スケールに驚くぞ」
そんなこと言い残して戌田は行ってしまった。
メールで指定された場所に行く。ミライは既にいた。
ミライはパーク内では広く知られたガイドだ。動物のことならなんでも知っている。そしてちょっとばかり…、いや良くも悪くもかなり歪んだ動物愛を持っている。ときどきフレンズどころかお客様までドン引きするとの噂だ。
ただ悪いとこばかりではなく、新人の教育担当のような仕事まで任されていたりと信用は厚い。
そして隣にもう一人。ピンク色な髪で、緑のパーカーを羽織っている女の人。
確かあの人は…。
「あー来ましたね敬さん! 今日は遅刻しなくてよかったです」
冗談キツイですよお姉さん。
「あ、お二人は顔を合わせるのは初めてですか? えーと敬さん、この人は菜々さんです。あなたと同じ日に”遅刻をせずに”間に合った人です!」
「あのーミライさんもしかしてまだ怒ってます?」
ミライさんってこんな人でしたっけ。
「そして――、菜々さん、こちらが敬さんです。あなたと同じ新人の飼育員ですよ」
「はじめまして、菜々です――」
あまりいい感じではないが、菜々との出会いはこうして訪れた。
手軽に挨拶を済ませ、多少話をする。菜々はキタキツネと、俺が担当しているカラカルの親友サーバル担当で、意外なところで縁があったとか、キタキツネがとにかく大変だとか、そんなことを聞けた。
特に俺の担当しているカラカルの親友を担当してるのが菜々である、との情報は今後関わりが増えると言うことの示唆だろうか?
…などなど。
「それでは、体力測定について簡単に説明しますね。体力測定は人間でいう学校でやった体力テストみたいなものです。基本的に飼育員さん立ち会いの下で担当しているフレンズさんの結果を測ります。フレンズさんは体力やらなにやら人間よりすごいですから、規模も桁違いですよ。あ、私もアシスタントとして参加するので安心して下さい! それで、日程なんですが、菜々さんが明日でサーバルさん、キタキツネさん、そしてコアラさんの測定。敬さんが明後日で、カラカルさんとトキさんになってますね。場所などはまたメールなどでお知らせします!」
…トキか。一応名前は知っている。確か、とても歌が……な噂が流れてるんだっけ。まぁ俺も実は音痴だからある程度なら気にならないけどね。
「それでは、また後日よろしくお願いします!」
帰る前にカラカルに体力測定のお知らせをしようと思い、本部からスタッフカーのカギを借りる。1ヶ月飼育員を担当していると、どの辺りにいるのかが検討付くようになる。その場所へ向けてスタッフカーを走らせる。
ーサバンナエリアー
目星の場所に着いた。さーてカラカルは……やっぱりいた。今日はサーバルもいるみたいだ。
と、二人がこっちに気づき、先にサーバルが走ってきた。
「こんにちは! …あれ、今日はお休みだーってカラカルから聞いたよ?」
サーバル。言わずも知られたフレンズだろう。
「ミライさんに呼び出し喰らってさ。怒られてはないよ」
「そうなの?」
「あーそうそう、体力測定の日程決まったって。サーバルは明日らしいけど詳しい事は菜々さんからお願いできる?」
「分かったー!」
「で、だ」
車を降り、あとからゆっくりサーバルを追っていたカラカルに目線を合わせると小走りでやってきてくれた。
カラカル。サーバルの親友で面倒見の良い子だ。飼育員なりたての頃は俺が飼育員であることに不安を覚えていたっぽいが今はなんとか付いてきてくれている。
「…ガイドさんからの呼び出しで怒られなかったのね。時期的に要件は体力測定かしら?」
「おっ当たり。どうやら明後日のようで。そのときトキも一緒に測るって」
「えっ…大丈夫かしら」
「まー大丈夫でしょ。明後日よろしくね」
「分かったわ」
「あ、俺ちょっと本部でやりたいことあるから一旦戻るわ、サーバルも、またね」
「…やっぱり飼育員って忙しそうね」「バイバーイ!」
ーパーク本部ー
休みの日だが、どうせここまで来たなら、というわけで仕事の日に自分で書いてる日誌を書こうと思いパーク本部に帰ってきた。
塔内には飼育員はさほどおらず研究員がチラホラ。まぁ昼間だから飼育員は担当のフレンズの所に行っているんだろう。
自分の机に向かい、引き出しから日誌を取り出す。あくまでこれは自主的に取り組んでる日誌なので、休みではない日に書いてるレポートとはまた違ってくる。
数分ほど机と向かい合った後、荷物をまとめて本部を出る。仮にも今日は休みなので、このまま帰ろう。
__また駅に戻り、改札で定期券片手に改札を通り、反対方向の都市エリアの電車に乗り込む。
どのような感じで体力測定が行われるのか。
戌田にあんなこと言われてしまったので、それが気になってしょうがないのであった。
ー敬の日誌ー
どうやらフレンズの体力測定の時期らしい。自分の元にもそれが来た。
というか初めてだから勝手が分からないがミライさんのアシスタントがあるなら大丈夫だろう。だよな?
菜々さんとも今後関わりが増えそうだし、フレンズだけでなく仲の良い飼育員も増やしていかないと。
まずは明後日、体力測定頑張らないとね。
もう一人の新人飼育員のお話(けものフレンズ二次創作) Green Liner @NihoTai_3950
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。もう一人の新人飼育員のお話(けものフレンズ二次創作)の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます