第2話

会社終わりに呑む場所は駅から近かったり会社の帰り道だったりと吞み終わってから帰るまでを考えて近場で済ませる事が多い。


だが鳥居になると別だ。あいつの場合会いたくない上司や同僚(主に課長)が多すぎるあまり会社や駅から離れた場所を好む。よって今回も例に漏れず会社の最寄り駅から2駅分離れた場所だった。


鳥居はモダンで落ち着きある雰囲気の居酒屋は好まない。性格的にいつも騒がしく賑やかな所を好む。この壱番屋も鳥居がよく吞みに使う喧騒賑やかな酔っ払い溢れる居酒屋だ。知り合いがいなく、値段が安いのが良いところだ。


店に入り生ビールを2人分と適当なつまみを頼む。注文後すぐに飲み物だけ届き乾杯する。


「いや〜雫ちゃんマヂで容赦ねーの。俺の右尻受胎てんのかってくらい腫れてんぜ。」


帰りの衝撃的な土下座の後、課長から次はないと厳命を受け、何とか吞みに来れた。あの時の課長は恐ろしかった。右手に馬などを調教させるための鞭で執拗に鳥居の右尻のみをを叩いていたのは忘れられない。ちなみに課長の名前は桐生雫である。


「あれだけのことをされたならもう少し課長に対する日頃の行いを見直したらどうだ?」


鳥居の右尻課長も流石にやりすぎだと思うがこいつのサボり癖もなかなかに酷いのでこれを機に自分の行いを省みて欲しい。


「やるときはやってやらないときはやらん!こんなにメリハリがしっかりしているのに日頃の行いを見直す事なんて必要性を感じないな!」


これじゃ課長に叩かれても仕方ないな。課長の心労が目に浮かんだ。


そんなくだらない会話しつつ呑んでいたら1時間程度経ったときに鳥居から話を振ってきた。


「でも一也が嫌な事があるとか随分と珍しいよな。いつも淡々と仕事をこなしてるからそういう感情は死滅してんのかと思ってたよ。」


酷い言われだ。


「そんな訳ないだろ俺にも辛かったり悲しくなるときはあるさ。」


「へー、なんだ?女か?」


どきりとした。鳥居はなんて事ない顔しながら確信ついてくるからたまに困る。


「まぁそんなとこだよ。」


嘘をつく事は出来たが少し酔っていたのと嘘が苦手なので少し濁して答えた。


「なんだ〜?好きなやつでも出来たのか〜?お前も隅には置けないやつだな〜。」


「そんなやついねーよ。」


鳥居があまりニヤニヤと人の事をからかってくるので少しキツめな言い方になった。そもそも好きな人なんて昔に囚われている自分には無理な話だ。


「なんだ、女の話っていうからてっきり新しく会社に入った子でも気になったのかと思ってたのにな〜。」


「新しく入った女の子?」


自分の部署は他の部署に移動することがなく常にパソコンとにらめっこだ。よって他の部署に新しく人が入ってもなかなかわからない。


「そうそう。すげー可愛いってもっぱら評判でさ、営業部にいて日本人とフランス人のハーフみたいで髪が金色なんだと。でも性格に難があるみたいで同じ部署内の奴らから嫌われてるみたいって話らしいぜ。」


帰りの女子たちの会話はこの事か。他の部署とはいえ噂や悪口がここまで広がるのは余程酷いのだろう。


「それにそこの部署の係長のお気に入りみたいで度々2人で出かけているのが目撃されてるみたいだ。付き合ってるんじゃないかって噂まで飛び交っているぜ。」


「それはないな。見間違いじゃないのか?」


営業部係長刑部慶太43歳独身、気持ち悪いを具現化したような存在でチビでデブ。頭の中央が円形に禿げており脇汗を尋常じゃない程かいている。ついたあだ名は歩くコールタール。いつも「えへへ」というのが癖で同じ部署の奴らどころか全部署で嫌われている。そんなやつと付き合うなんて正気の沙汰ではない。


「だが何人も見てるんだし見間違いじゃないだろ。それに見た人曰くとても楽しそうだとも言ってたぜ?」


むぅそこまで言われたらしょうがない。でも本当に付き合っているんだろうか?そうやって悩んでる時に鳥居が唐突に言った。


「それで一也はどんな子がタイプなんだよ?」


「は?」


いきなり話を変えて話してきたのでつい間が抜けた返事をしてしまった。


「いや、こう女子の話をしているのに一也から女の話を全く聞かないからな。相手がいるいないにしろどんな女が好きか気になるもんだろ。」


「ならねーよ。さっきの会話からなんでそうなるんだ。」


「まあまあ、そんな事言わないで少しぐらい教えろよ。ロリか?幼女か?小学生か?」


「なんでそんな幼くて犯罪臭が漂うもんしか例にあげないんだよ!普通!普通の人が好きなんだよ!」


「なんだ普通かよー。なら人妻、ナース、OL、どれだよ。メイドなんてポイント高いなー。」


「お前普通はどこにあんだよ!黒髪清楚でいいんだよ!」


「黒がいいのかー、じゃあレース、紐、Tバック、ローライズどれだ!」


「パンツの話じゃねーんだよ!」


真面目な話から鳥居節をかまされて色々と考えていた事が吹っ飛んだ。その後も鳥居と吞み続けフラフラになって何とか帰宅した。

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曇り時々晴れ、のちあなた 自由考 @okidoki

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