18年間

ゆきみさやか

18年間

僕は、この18年間なにもしてこなかった。「なにもしていない」というのは食事も睡眠もしていないということではなく、「覚えていない」ということだ。過去は脳のメモリを使うほど、重要なことではないと思っていた。




春。


僕は、何を思ったのか不毛地帯で作物を育てようとした。絶対に育つわけがない。だってここは不毛地帯なんだから。それでも僕は、作物の育て方を勉強し、種を買い、たくさんの農家の人達に会ってきた。


「すごい!」


「まだ、若いのに偉いわね!」


なにか違和感のある称賛の嵐。




不毛地帯に戻ってきた僕は思ったんだ。


「こんなところに作物が育つわけがないじゃないか!」


そもそも、何故なにも成し遂げていないのに「やってみたい」と言っただけで称賛されるのだろうか。これじゃあ、ただのオオカミ少年だ。


変な期待を感じた僕は、「もっと期待に応えないと」と思い、噓つきになった。


いや、ベラベラと言いふらしていた時点で、嘘つきだったのかもしれない。




たくさんの称賛の嵐。


「期待しているよ!」


「すごいね!」


称賛が当たり前になると、もう称賛だけでは満足できなくなっていた。


そりゃそうだ、不毛地帯にさらに不毛な言動を重ねて、僕はもう羽毛布団でしかない。


期待に応えることができなくなり、期待されなくなった僕の怒りの矛先は僕自身へ向いた。




夏。


「こんなこともできないのか。」


僕は全く期待されなくなった。


自分で自分に期待してみるけど、結局、裏切られる。


どんどん、自分が信用できなくなって周りの人がみんな凄い人に見える。


ますます自分の情けなさがはっきりする。




そんなことを繰り返しているのに、ある人だけは僕のことをずっと応援してくれていた。


「あなたの世界に触れることが楽しくてしょうがないの。」


なんでこの人は、ずっと僕のことを応援してくれているのだろう。

「感激です。」


僕には、何もないというのに。


「いつも見てるよ!」


何もない僕を見てくれる人がいる。


それは、僕にとってはないのと同じでも、ある人にとっては、新鮮な世界だからなのだろうか。


何もなかった僕の18年間。


本当は、たくさんあったんじゃないだろうか。


それをどこかに忘れてきたか、あるいは落としてきたか、いやどれも違うのかもしれない。




秋。


行動。


虚勢ばかり張っている僕にとっては、それはもう、とても大きな壁だった。


今までついた嘘も、現実にしてしまえば嘘ではなくなる。


僕は本気で、不毛地帯に作物を作ることを決意した。


だが、何度挑戦しても、作物は育たない。


なんで。


褒めても何も出ないが、責めても何も出ない。怒りはさらに増していく。どうしようもない感情をどこにもぶつけることが出来ない。


僕は、行動だけに集中した。


もちろんうまくいかない。


だが、変なプライドを捨てきれないせいで、失敗を恥ずかしいと思ってしまう。


わかっているけど実際に失敗するとやっぱり恥ずかしいんだよ。


それでも、何度も何度も失敗を繰り返していると、失敗に対する免疫力が付いてくるような気がする。


失敗はウイルスのようなものだ。どんどん成長していく。


全く厄介だ。


そう言っている、僕も成長していく。


正直実感はない。けど、以前よりは増しなのではないか。




冬。


継続は力なりは本当らしい。


秋から続けてきたものが当たり前になってきて、自分の中で確実に何かが変わってきた。


実感。というのは今のような状況を言うのだろう。


だが成長すればするほど、問題もどんどん増えていく。


一度に全てを解決しようとすると、あっというまに足元をすくわれる。


自分と向き合って、向き合って、にらめっこしても、問題が解決しない時間が長く続いた。


こうなってくると、必然的に華やかな外の世界に目が行く。




あの人いつの間にか優勝している。


なんであの人が。




焦る。


周りを見れば超人だらけ。


また、自分に呆れる。




もう、こうなってしまうと全部投げたくなる。


きっと来年もまた、「なにもしていない」一年になるだろう。


本当にそれでいいの?




ああ、そうか。


なんで、僕の18年間が「なにもしていない」ことになっていたのかがわかったよ。




僕は、自分と向き合うことを放棄していたんだ。




果たして自分はどこにいるのか、何をがしたいのか、自分を見失っていたんだ。


18歳。


悩みは尽きない。きっと死ぬまで悩み続けるんだと思う。


けど、必死になって自分と向き合っているからこその悩みなら、悩んでいる状態はそんなに悪いものではないのかもしれない。


不毛地帯に作物が育つ日まで、僕は全力で僕と戦おう。


僕が僕を超える日まで。













  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

18年間 ゆきみさやか @yukimisayaka6

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ