ヤンチャ坊主と勇者②

 有川朝矢は同年代のなかでは小柄なほうだが、まだ二年生の蓮司からしたら大きく見える。蓮司もまた二年生のなかでもっとも背が低いからだ。そのうえ、気も弱いからなにかといじられてしまうのは保育園のころから変わらない。強くなりたい。そう思いながらも、結局は怖気づいてしまいなにもできない。それゆえに気の強い朝矢を苛つかせてしまい、怒声を浴びせられることになる。


 朝矢と同級生の女の子の後ろに隠れた蓮司だったが、喧嘩しているすきに無我夢中でかけていた。


  どれくらい走ったのかわからない。足を止めるとそこは林の中だった。振り向くとすぐ近くに出口があり何度か足を踏みて入れた場所だから知らない土地ききたわけではないのに、なぜか迷子になったようで不安がよぎる。蓮司は入口に背を向けてしばばらく林の中をあるく。


 するとポツンと祠が佇んているのがみえた。いつからある祠なのかはわからない。ずっと昔からこの林の中でひっそりと存在している祠だ。その両端には狛犬らしき銅像。けれど、狛犬にしては大きく、眼差しも鋭い。堂々たる勇者のようだと蓮司は評している。その狛犬を横切り、蓮司はの前の三段階段の座り、ビックリマンチョコを見た。


「渡さないと……。僕のもんじゃなかし……おつりも返さんといかん」


 ポケットに入れていたおつりを取り出す。


「食べていいかなあ。いかんやろうなあ。朝矢くんのもんや」


 そんなことをつぶやいていると、どこからか声がした。


 食べていいぞ。お前が買ってきたのだから、お前のものだ。


 金のことは大したことない。


 朝矢君におごってもらったものだと思えばいい。


 そんな誘惑だ。



 けれど、ばれたら、またやられてしまうのではないか。


 渡しにいこうか。


 けれど、そこでやられる。きっと、逃げたことをとがめられるだろう。


 そう思うと体が動かない。蓮司は、そのまま膝を寄せてうずくまっていた。


 ビりッ


 その時、音がした。何かが避けるような音に、蓮司がはっとする。


 なんだろうと音のするほうを振り返ると、足音が聞こえてきた。


 中学生だ。大柄な中学生が祠の向こう側から姿を現した。


 ビリッ


 まただ。どこからか、何かがひび割れる音。


「おいおい。ガキがなにしよる?」


 いかにも柄の悪そうな中学生が自分を威嚇している。朝矢の眼差しよりも恐ろしい。


 逃げないと……。


「ここ、どけろ。俺たちの縄張りばい」


「はっはい」


 蓮司が慌てて、階段から離れると中学生たちが座り込むなり、ポケットから煙草を取り出して、吸い始めた。


「あの……。たばこは……」


 小さな蓮司でも知っている。中学生がたばこを吸っていいはずがない。


「ああ、文句あるか。このやろう」


「いえっ」


「ああ、なんだ? その態度、なめてんこか!? こら!?」


 すると、なぜか突然切れた中学生たちが蓮司を思いっきり殴りつけた。蓮司はそのまま階段から転がり落ちる。


 どうにか起き上がった蓮司は中学生のほうを見上げようとした。

  

 すると眼の前に中学生の姿があったのだ。


 そのまま、蹴られてうずくまった。



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