跳び箱と赤ずきん⑥
僕が次に目を覚ますと部屋のベッドに寝ていた。たしか学校にいたはずなのにいつの間に帰ってきたのだろうかと思いながらも、ベットから起きた僕はリビングの方へ向かった。
リビングのほうではパンの香ばしいにおいがしてくる。テーブルに並べられた朝御飯。その前にあるテレビがニュースを流している。
『本日未明。〇〇小学校の体育館の跳び箱内にて、子供の白骨化遺体が発見されました』
僕の通っている小学校だ。
僕はそのニュースに飛びついた
。
『白骨化した遺体は死後五十年は経過したもので、戦時中に亡くなった子供だと推測されます』
「違うな」
朝御飯の支度をしていた父がつぶやく。
「おそらく、爆撃といったものじゃない。詳しくはわからないが、なんらかの理由で跳び箱の中に閉じ込められたのだろう」
「でも、戦争でって……頭巾かぶっていたし……」
「戦後だ。おそらく」
父はなにを想っていたのだろうか。
僕にはわからなかった。
そして、僕は学校へいくと、雰囲気がガラリと変わっていた。
みんなが笑顔だったんだ。
どういうことなのだろうか。
僕は考えた。
そして、ふいに思い出す。
顔だ。
父のいっていた"なまなり"の顔がここにいる子供たちの顔そのものだった。
おそらく子供たちは意識をあの女の子の霊に抜き取られていたのだろう。 いわゆる魂だ。
完全に抜き取られたわけではないから、子供は死なずに廃人のようになってしまっていた。
ではなぜ、そんな現象が起こったのかというと、戦時中に死んだのかはよくわからないが、跳び箱の中で死んでいた女の子が寂しさのあまり、自分とさほど年の変わらない子たちを引き寄せていたのかもしれない。
ーーーーーーーーーーーーー
いまとなってはわからない。
そういえば、そのとき父は妙なことをいっていた。
「もうすぐ、とんでもないことが起こるかもしけれないな。その時、お前が活躍するころになるな。負けるなよ」
どういう意味だったのだろうか。
「とうさん。とうさん。新入りみつけたよ」
「またどこからともなく拾ってきたのか。ナツキ」
ナツキがむじゃきに笑っている。
僕はふいに聞きたくなった。
「ナツキはわかるか? 赤ずきんを着た女の子の話」
「赤ずきん? もしかして、とうさんが子供のころに体験した赤ずきん?」
「知っているのか?」
「うん。知っている。戦後赤ずきんをかぶせられて跳び箱の中に閉じ込められた子でしょ」
「閉じ込められた?」
「うん。聞いたことあるよ。妖怪たちがいっていたの。赤ずきんの子がいじめで殺されたって……」
そういうことか。
なんとなく合点がいく気がした。
長いこと閉じ込められていた。
助けてほしかった。
寂しかった。
だから、友達が欲しかった。
だから、子供たちの魂を引き入れようしたのだ。
「それよりもとうさん。新人に逢うよね」
「どうしようかな。いつ来るんだい」
「明日」
「うーん、残念。明日は掘り出し物を探しにいかないと……」
「店長。いい加減にしてくださらない」
いつのまにか店員が店にいた。
「はははは。今日はいるよ。とくに用事はないから」
「本当ですか?」
「本当だよ。本当。巣鴨でたくさんスルメ買ったからね」
「まさか。干し物買いにいくつもりですか?」
「違うよ。本当に明日は掘り出し物を取りに行くんだよ。ついでに懐かしい母校も見てこようと思ってね」
「母校?」
「僕が四年生のころに過ごした母校。廃校になって、来月壊されるんだよ。そこにいろいろと掘り出し物があったらしいんだよね。そういうことで明日からしばらくいないから、よろしく」
そういいながら、僕は骨董店のカーテンを開けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます