やんちゃ坊主②

 そんなヤンチャ坊主だった有川朝矢が突然いたずらをやめた。だが、そのかわりに身体中傷だらけになることが増えた。


 どうしたのかとクラスメートたちが尋ねると「お前たちには関係なかやん」といった感じで相変わらずの口の悪さでごまかす。そのためか徐々に仲のよかった友達とも壁が生まれていき、気づけばひとりでいることが多くなっていた。


「なんかおかしかよねえ」



「そうかなあ? あんまり変わらんごたっけど」


「変わらん? 違うやん。だって独りじゃん」


 愛美のことばで澤村桜花さわむらおうかは朝矢をみる。朝矢はいつもどおりクラスの友達と話をしている。どうみてもひとりでいる感じではない。どこがひとりなのだろうかと桜花は首をかしげる。


「どこが? ひとりじゃなかやん」


「え? 独りだよ。独り」


 なにをいっているのかさっぱりわからずに、桜花は別の友人の方へと視線を向ける。友人たちも困惑の色を浮かべている。


「めぐちゃんって、たまに変なこというよね。そがんも有川くんが気になるとね」


 そう言って友人たちはニヤニヤしている。


「ちょっと、それ以上はいわないで」


 桜花が相変わらずクールに言う。


「桜花ちゃも気づいていたんだねえ」


「……」


「え? なにが? 桜花ちゃん。なにが知っているの?」


 そこにいるだれもがわかっている様子なのに当人である愛美だけがどういう意味なのかわからずにキョトンとしている。


「教えてあげようか」


 他の友達がなぜか楽しそうにいう。


「やめてちょぅだい。ぜったいに面倒なことになる」


 桜花ちゃんのその一言でみんなが口をつぐんだ。


「そうね。いわないでおこう」


「え? どういうこと?」


 愛美は問いかけるも、それ以上なにもいわずにただニヤニヤするばかりだった。


 友人たちが気づいた愛美のなにかに気づくまでにはもう少し先のことになる。同時に朝矢が“独り”になった理由に巻き込まれることになるのだが、そのときの彼女には想像もしないことだった。





 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る