真夜中に獣が鳴く②
男がそれに遭遇したのは酔っ払った夜のこと。仕事がうまくいかず、年下の上司に怒られたのとによるストレスを発散するべくして週末ハシゴ飲みをしていたときだった。何件行ったのかはわからない。仕事が終わると家にも帰らずに繁華街をいくつも転々としていた。
季節はクリスマスシーズン。妻や子供へのクリスマスプレゼントを買わないといけないなあと思いながらもいまはそんな気分になれず、ただ日常を忘れたかった。
それなのに携帯電話は鳴り響く。
妻が早く帰ってこいという催促だ。だが、そんなもの無視する。帰ったあとのことなど知らない。とにかく飲みたいのだ。
そういうわけで携帯の電源を切るとバッグの奥へと押し込んだ。
もうずいぶん酔いが回っている。
気づくと男はビルの間の人気がない路地裏に座り込んでいた。
いつまでそうしていたのかはわからない。そんなに長い時間ではなかったのだろう。
男が目を覚ましたのは猫の声が聞こえたからだ。
野良猫だろうか。
男はぼんやりとした視界を鳴き声のほうへ向けた。
たしかに猫がいた。
猫がこちらを見ている。
猫にしては大きい。
もしかしたら、虎だろうか。
いやこんなところに虎などいるはずがない。
揺れる尻尾がいくつもみえる。
酔っぱらっているから何十も見えているのだろう。
男は自分のほうを見えている猫を撫でようと手を伸ばした。
すると猫の体がまた大きくなったような気がする。
にゃーという可愛らしい声がどんどんと大きくなっていく。
ぎゃー!ぎゃー!
その声は甘えているわけじゃない。確実に威嚇していることに気づいたとき男の体に戦慄が走った。
すると体が勝手に震える。
本能的にいますぐ逃げないといけないという衝動にかられるも体はびくとも動かない。
立つこともできずに自分よりも大きい猫をみていた。
猫じゃない。
化け猫だ。
化け猫がよだれをたらしながら大きな口を開いている。
お前を喰ってやる。
そういっているような気がしてならない。
「にゃあ」
猫が鳴く。また可愛らしい声。だが、その巨大な体躯ために男には恐怖しか与えなかった。
猫の尻尾はひとつではない。八つの尻尾が一つずつ独立しているようにうねっている。
あれはなんという生き物なのか。見たことのない生き物がなぜ自分の前に突然現れたのか。男は必死に考える。だが、まったく心当たりはない。そもそも猫好きな男が猫をいじめるようなことをした記憶もないのだ。それなのにその八つの尻尾をもつ大型の猫は男へ敵意をむけている。
「にゅあああああ」
大型の猫が声をあげると男に襲いかかった。
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