真夜中に獣が鳴く①
そんな都会のクリスマスシーズンの繁華街に初めて訪れた
だからといって、人にいたずらを働くわけでもなく自分たち独自の世界を楽しんでいるものがほとんどだ。それでも時折人間に危害を加える妖怪はいる。
とくにこういうイベントシーズンになると羽目をはずすのは妖怪も同じのようだ。
ゆえに祓い屋というものはイベントシーズンには人間たちに危害を加えそうな妖怪を沈めるために街へ駆り出されることが多い。
朝矢もまたイベントを楽しむというよりも仕事のためにやってきたということが正しい。
「くそっ、いつまで見回らんばとや? なんも起こらんやっか!」
「そういうな。何事も起こらないほうがよいではないか」
方言丸出しに愚痴る朝矢に対して、追従していた山男がなだめるように顔をあげる。
「たしかにそうだけどよお。明日までにレポート書かなきゃならねえんだよ」
すると朝矢に追従していた神獣の山男があきれたようにため息を漏らす。
「課題などさっさとやってしまえばよかったではないか。土壇場でなければやらぬのは悪い癖だぞ」
「うるせえ。なにもかもあのくそ店長がいろいろぶっ混むからやる暇ないんだよ」
「人のせいにするでない。もう少し大人になれ」
山男の言葉に朝矢はそっぽを向く。その駄々っ子のように拗ねる朝矢にため息を漏らした。
もう日付が変わろうという時間。賑わいがとどまることを知らないのは、明日が日曜日であるためだろう。
サラリーマン風の酔っぱらいが踊るように歩いている姿も見える。
初雪が降り注ぎ、ただ歩いているだけの朝矢には寒く感じるのだが、どこか浮かれている人たちには冬の寒ささえも忘れさせてしまうのだろう。陽気に踊り陽気に歌い、気のあうもの同士で笑いあう。本当に日本という国が平和なのだと感じさせる。
されど華やかな街の裏には静かな闇が存在する。
朝矢と山男の視線がふいにビルとビルの間の路地のほうへと注がれる。
しばらく見ているとひょいっと一匹の猫が路地のほうへと入っていくのが見えた。
すると山男が走り出す。
朝矢もまた山男を追いかけた。
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