5・結界
「ふう。あぶなかったでえ。ナイスやでえ。トモ」
蔓の動きが収まるのを確認した高柳成都はホッとして外界との隔たりのなくなった窓のほうへと近づく。
成都の目線の先には、巨大な化物花の幹が視界を遮るように聳え立っている。大口を開けた花にくっついた顔が成都のいる方向へ睨みを効かせている。
蔓が成都のほうへと延びてはいるが途中で動きを停めたまま、うねり続けていた。
「これ以上、これへんでえ」
スクランブル交差点には巨大な花の化け物の蔓が交差点周辺にいる人たちに襲いかかっているところがみえる。
ここはどうにか防げているが、ほかはまだなにもできていない状態だ。
「ここだけ守っても仕方ないみたいやなあ。どないするねん。トモ」
蔓に向かっていいながら、視線を化物花から右側に下ろす。
騒然とする街の光景の中、交差点から少し離れない場所で、バイクに股がった男が弓を構えてこちらを見上げていた。
有川朝矢だ。
それを確認した成都はもう大丈夫だと彼に伝えるために、両手を使って丸印を描いてみせた。
それにうなずくと同時に朝矢がにぎっていたはずの弓がこつぜんと消える。朝矢はバイクのハンドルを握ると巨大な化け物花にむかって突進しはじめた。
「無茶するんやないでえ。トモ」
そういいながらも、さほど心配してはいない。もう大詰めだ。あっというまに解決するに違いない。
成都にはその確信がある。
成都はもう一度化け物花をみる。蔓が再びこちらへ迫ろうとしている。しかし、それは相変わらず窓にたどり着くまえに動きをとめてばかりいる。いや、見えない壁に阻まれ、跳ね返されているといった感じだ。
「まあ、やっこさんの目的は達成されへんなあ。読み通り、目的がこの娘ならなあ」
成都は自分の服についた埃をはたきながら、呆然としてこちらを見ている園田美奈を振りかえった。
園田は不安な顔をこちらに向けている。
彼女自身も自分が狙われていることがわかっているのだろう。だから、園田の顔はいまだに青ざめたままだ。
ある意味自業自得だ。
園田奈美は葉山麗を自殺に追いやった張本人なのだから、恨みを抱いた麗に狙われてもおかしくない。
そうだとしてと、放っておくわけにはいかないだろう。
少なくとも、成都にとっては彼女が過去にどんな罪を起こしていようと関係ないことだった。ただ守るべき対象が園田奈美であるのだから、そうしているだけだ。
「大丈夫や。あのバケモンはここにはきいへん」
彼女は首をかしげる。
そういわれても安心できるわけがないといわんばかりの顔をしているが、それ以上護衛対象者を安心させる言葉など成都はもちあわせていない。
「ちゃんと結界張ったからなあ。店長の札は強力やでえ」
そういいながら、成都はもう一度窓のある方向の壁をみる。そこには一枚の札が張られていた。
それは“かぐら骨董店”の店長が渡したもので、成都がこの喫茶店内に飛び込んですぐに張ったものだ。外にいるアヤカシを一切引き付けない結界ではあるが、すでに入りこんてしまっていたものには効果がない。それゆえに成都が倒す必要があったのだ。
まあ、結果的に朝矢の矢に助けられたのだから一人で倒せたわけではない。
(俺もまだまだやなあ。まあ、とりあえず
戦いが終わるまではここで待機や)
成都は店内にいる客や店員に動かないようにと声をかけると外で行われている戦いを見守ることにした。
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