4・悲鳴
「おりゃあああああ」
園田が死を覚悟した瞬間だった。
ガラスの向こう側から若い男の声が響き渡ったと思うと、割れたガラスの外からひとりの男が飛び込んできた。
同時に持っていた槍で動く蔓を次々と切り裂いていく。
──ぎゃぁぁぁぁぁ
切り裂かれてちぎれた蔓から少女の悲鳴が聞こえてくる。
男は気にすることもなく長い槍を器用に振り回しながら、次々と蔓を切り裂く。
そのことにより、蔓に縛られて宙吊りにされていた人たちが次々と蔓から解放され床に落ちていく。
「あっち、いきなはれえええ。こんのドアホがあああああ」
そのたびに男は、関西弁まじりの雄叫びをあげた。
店の中に侵入した蔓をある程度切り裂いてしまうと、片手を腰にそえ、槍を肩に立て掛ける。そのまま、床に落ちていく蔓を眺めた。
床に転がった蔓はまるで陸にあげられたばかりの魚のようにジタバタとのたうち回る。
「おっ、まーだ、うごけるんか?」
関西弁の男は陽気な口調でいう。その言葉に逆上したように床をのたうち回っていたはずの蔓が突然飛び上がり、関西弁の男に襲いかかる。
「おれをなめたらあかんでえ。おりゃあああああ」
槍をを思いっきりふるまわすと、蔓にその槍の棒の部分にあたり再び床に叩きつけられる。
それでも、蔓が次から次へと襲いくるが男は怯むことなく、槍を震う。
そのたびにあがる女の悲鳴に園田は耳をふさいだ。悲鳴を聞くたびに甦るのは葉山麗の姿。みんなにいじめられて、涙をながす。どれほどの悲鳴をあげ、苦痛を味わってきたのかと園田に突きつけてくる。その悲鳴が異様なほどに園田を攻め立てているのだ。
おまえがわたしをころした
おまえがわたしをこうした
そう叫び攻め立てる声はかつて園田がいじめた少女の声だ。
葉山麗は許さない。
葉山麗はそのためにきた。
葉山麗は園田を殺す。
自分が彼女にそうしたように……。
「ごめんなさい」
園田は耳を塞いだまま顔を伏せた。
「ごめんなさい。ごめんなさい。だから、やめて……。やめて、お願い……」
園田が訴える。その声は小さくだれの耳にも届かない。園田の目の前が真っ暗になっていく。
許さない
許さない
園田の心に響く声。
取らないで
取らないで
園田が秋月を誘惑し、強引に関係をもった火が過っていく。
許さない
取らないで
許さない
取らないで
責める。
攻め続けている。
「おい、おまえ。早く逃げなはれ!」
男の声でハッとする。
園田が顔をあげたとき、男の背後には蔓。いや、大きな口が迫っているではないか。
「きゃああああ」
園田の悲鳴で男が振り替える。槍を震う隙間もないほどにそれは近づいてきていた。
大きな口が男に食らいつこうとした瞬間。突然大きな口の動きが止まった。たちまち、大きな口だったはずのものが蔓の先端へと変わり、床にくずれ落ちる。
その蔓には矢が刺さっていた。しばらくバタバタさせていた蔓が動きをとめる。同時に矢に吸い込まれるかのように蔓が消えていく。
ほとんど消え去ると同時に矢も消え去った。
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