3・蛇に睨まれた蛙

花はただの花ではない。


 花と呼べるものなのかすらわからない。


 花というよりも化け物だ。


 一つ目に大きな口。


大人の身長を軽く超え、奈良の大仏ほどの大きさはありそうな巨体が蔓を伸ばして、あらゆる人を跳ね除け、園田のいるビルのほうへと近づいてくる。


  動けない。周囲は動揺して、逃げていくというのに金縛りにでもあったかのように身動きさえもできない。


 背中に氷が抜けていくような感覚。震えが止まらない。


──みーつけた


 その声は園田をあざけわらっているかのように聞こえる。


 まるで獲物を見つけた猛獣かなにかのようだ。


 ならば、自分はいま猛獣に睨まれているということになる。



「きゃああああああ」


 その大きな蔓が窓ガラスのほうへと近づいてきていることき気づいただれかが悲鳴を上げる。店内が騒然となるまでに時間はかからなかった。


ガシャーン


窓ガラスが割れると同時に蔓が店内へと入り込んできた。人々は本能的に動物のように動く蔓から逃れようと店の奥へと逃げていく。


その流れに紛れて園田も逃げていると、次々と周辺の人たちが蔓に囚われていく。人に巻き付いていない蔓の先から目玉らしきものが現れて、捕らえた人の顔を見る。


 


──違う……


 目玉から少女の声がもれると同時に彼らが解放される。そのまま、地面に落とされた人たちは茫然とする。


そして、別のものを捕らえ同じ事を繰り返している。



──どこ? あの女はどこ?



園田は怯えながら見つからぬように物陰に隠れてやりすごそうとする。


その間にも人々が次々と捕まっては解放される。それを繰り返すうちに蔓が人を解放するときに乱暴になっていく。


──どこ?


──どこにいる


少女の口調も荒くなっていく。蔓に巻き付けられた人々から断末魔のごとき叫び声が響いてくる。


地面に叩きつけられる。


血のにおいがする。


人々は店内にひとつしかない階段をかけ降りていくが、ドミノ倒しとなって転がり落ちていく。


そのようすをただ隠れてみていた園田の目には涙がにじむ。からだが震える。


──どこ。あっ


はっとすると、その目玉が園田のすぐ目の前にあった。丸い眼球は血のように赤く、園田に対する殺意がミシミシと感じる。


―─見つけた


その歓喜の声は園田に絶望を与えていく。全身が凍りついていくのを感じる。


蛇に睨まれた蛙そのものになった園田はただ怯え震えるしかなかった。


──ようやく見つけたわ。味わわせてあげる



 蔓が園田の体に絡みつく。


──そして……。消えて……


 締め付けてくる。

 皮膚が切り裂かれ、血がにじむ

───ケケケケケ


 不気味な笑い声が響く。この声はだれ?


 彼女の声に似ているがそれとは異なるなにか。


 死ぬ

 自分は握りつぶされて死んでしまう。


 ダメだ。


 もうだめだ


園田は死を覚悟した。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る