2・妬み
園田にとって、葉山麗は目障りな存在でしかなかった。
どうして、あんなにおとなしい子と秋月君が仲良くしているのだろうか。
あんな子よりもずっと自分の方が秋月くんと釣り合うはずだと園田は勝手に思い込み、周囲のものたちからもそう言わせていた。
園田の前ではだれもが秋月のことを誉めない。逆にけなすこともない。その代わりに秋月の幼馴染みである少女のことはけなし、園田を誉める。
園田こそが秋月にふさわしいと吹き込むことで、彼女たちの安全を確保していた。
それほどに、園田美奈という少女は怖い存在だった。
生徒会長でありながら、その権利を振りかざす彼女に反発するものなどいない。そのことに園田自身優越感があったのだ。
園田がほしいものはすべて手に入る。
秋月は必ず園田のほうへ振り向く。
葉山麗に向けられていた笑顔春のやがて自分のほうへと向けられる。それが当然のこと。
当然のことのはずなのに、なぜか、葉山麗に向けられるような笑顔を向けないのか。
それはありえない。
あってはならない。
葉山麗は魔性だ。
葉山麗に秋月は騙されている。
葉山麗は必ず秋月を困らせることをする。ぜったいにさせる。
秋月が葉山麗に失望する瞬間を与えるのだ。
壊してやろうと思ったのだ。
秋月との関係もその笑顔もすべて壊して、屈辱を味わわせる。
歪んだ感情は、さまざまな人々を巻き込んでいく。
多くの人を巻き込んだことで、彼女を苦しめることに快感を園田以外のものに覚えさせることとなる。園田が直接手を下さずともいじめは続いた。
葉山麗に屈辱と絶望をあたえ、満足し、やがて忘れた。
そのまま、卒業し、園田が葉山麗を見かけることがなくなった。
秋月とも会わないまま、なんとなく高校生活を謳歌しているときに突然葉山麗が自殺したのだというニュースが飛び込んできたのだ。
知らない
私は関係ない
彼女の死の原因は私とは関係ないところにあるのだと園田は自分に言い聞かせた。
もしも、園田が原因で自殺したのだとするならば、もうとっくの昔に命を絶っていたはずだ。そうではないのだ。園田が卒業したあとのことで、園田のもとからとっくに離れてしまっている事柄だ。だから、園田が彼女を死に追いやった原因のはずがない。
それにいじめの実態も報告されていないのだ。
いじめが原因ではない。ほかに彼女が死ぬ理由があるはずだ。
園田はそう結論づけた。
それなのに、彼女は園田の目の前に現れた。園田の通う高校の後輩の体に乗り移ってまで、園田の前にいる。
なぜいまさらなのか。
もう二年もたつのに、園田を襲いに来たのか。皆目検討もつかない。
だけど、彼女は園田を追いかけてきている。
殺気むきだしで追いかけてくるのだ。
「私は知らない。私はしらない」
―─先輩……
園田の頭に直接声が響く。
聞き覚えのある声だ。
恨みと悲しみの満ちた声。
ずっと、響く声が近づいてくる。
彼女の姿を認識してから彼女から逃げた。
逃げても逃げても彼女が追いかけてくる。
スクランブル交差点を渡り、コーヒーショップの中へと飛び込む。
二階に上がり、隠れるようにしてスクランブル交差点を見る。彼女は交差点を渡りきったところで周囲をキョロキョロとしている。
大丈夫気づいていない。
ここでやり過ごせば、そのうち彼女はいなくなるに違いない。
そう願っていたが、次の瞬間、彼女の視線がこちら側へ向いた。
その瞬間、園田の体が凍りついた。
彼女が笑っていたのだ。
ガラス越しで聞こえるはずのない声。
だけど、園田には聞こえた。
耳ではない。
脳に直接響いてきたのだ。
──みーつけた。先輩
そんな声が聞こえた瞬間、彼女の体内からと突然蔓のようなものが出てきた。
たちまち、彼女の体を覆い隠すほどに蔓が延びていき、やがて花を咲かせた。
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